ウクライナで取材中の米国人ジャーナリストがロシア軍の銃撃を受けて死亡したことに世界各国の首脳が抗議の声を上げている。マクロン仏大統領やジョンソン英首相がツイッターで憤りを表明。国際的な反ロシア世論の高まりを背景に、米軍や北大西洋条約機構(NATO)が動くことはあり得るのか。

 死亡したのはブレント・ルノー氏(50)。13日、ウクライナの首都キエフ郊外のイルピンでロシア軍から銃撃を受けた。一緒にいたジャーナリストによると、住民らが避難する様子を撮影していたという。ルノー氏は過去、ニューヨーク・タイムズに寄稿。ドキュメンタリー映画の監督としても活躍していた。

 ルノー氏の死を受けて世界各国がロシアを批判している。磯崎仁彦官房副長官は14日、「ジャーナリストを含む一般市民への攻撃は断じて容認できない」と非難した。マクロン仏大統領は「私たちの思いは勇気と理想、つまり情報を提供する自由に駆り立てられたすべてのジャーナリストと共にあります」とツイート。ジョンソン英首相も「プーチンの野蛮な行動」と断罪した。

 これをきっかけに米軍やNATOが動きだすことは考えられるのか。特に米国にとっては自国民が殺されたことになる。もはや人ごとではないはずだ。

 ある戦場ジャーナリストは「おそらく動かないでしょう。過去にジャーナリストが戦場で命を落として軍が動いたってことが果たしてあるのかどうか」と否定した。

 そもそも戦場取材をするジャーナリストに命の危険はつきものだという。

「いきなりロケットが飛んでこないとも限らないわけで、戦場で死ぬことはあり得ることです。2010年にタイの騒乱を取材中に日本人カメラマンが銃弾を受けて亡くなりましたが、当初はどの勢力から撃たれたのか分からなかった。それくらい現場は混乱するものです。ルノー氏がロシア軍から『狙われていた』というのも信じがたい。狙って殺せるものでもなく、たまたまではないか」(同)

 ジャーナリストにとって今、ウクライナが取材したい場所であるのは間違いない。「海外の知人が事前にウクライナ入りしていましたが、東部のドネツクから動けていない。移動に自由がきかないようで、フロントライン(前線)の写真はあまり撮れてないようです。私もポーランドからのウクライナ入りを考えましたが、ウクライナ国内の移動に不安があり見送りました」(同)

 これからどう展開していくのか。ロシアとウクライナの間では停戦交渉が続けられている。進展が期待されているが、双方の希望はかけ離れたままだ。「チェチェン紛争のように長引くことも考えられます。ウクライナ内で親ロ派と反ロ派の内戦になり、ロシアは後方支援に回るかもしれません。今後のロシアの動きによっては“新しい冷戦”が始まるでしょう」(同)

 時代の転換期となりそうだ。