約2万2000人が犠牲となった東日本大震災の発生から、11日で11年となった。津波が原因で起きた東京電力福島第1原子力発電所(F1)の深刻な事故からも11年。デブリ(溶けた核燃料)冷却に使用されたり、地下から原発建屋に流れ込むなどした「水」の量はすでに130万トン近くもプールされた状況で、着々と「海洋放出」の準備は進んでいるが、その“リアル”はいったいどうなっているのか? 7年連続で現地取材を行ったラジオDJのジョー横溝氏(53)がフクイチの現状をリポートする。トリチウム汚染水(処理水)は「永遠に垂れ流しの形にならざるを得ない」というが…。 

 原発の事故処理ではデブリ冷却のために大量の水が使われ、建屋に流入した地下水なども含めて毎日、約150トンの汚染水が発生する。

 この汚染水からまず、セシウム、ストロンチウムを取り除いた後、多核種除去設備(通称ALPS)で、現在の科学技術では取り除くのが困難なトリチウム以外の62種類の放射性物質をろ過し、「トリチウム汚染水」として、敷地内に巨大なタンクを造り、ためる方法が採られている。

 その量はすでに129万トン(2月時点)。施設内にある約1000基を超えるタンクでも、ほぼ満杯で、もう“待ったなし”の状況。国は海洋放出の方針を決定し、東電も準備を進めている。計画では約1キロメートルの「海底トンネル」を太平洋沖に向かって掘り、そこから放出する予定だ。

 ジョー氏は「東京ドーム75個分という敷地内の約3分の1が汚染水タンクです。国は水蒸気蒸発などを議論しましたが、コスト的にも時間的にも水蒸気蒸発ができるなんて思っている人はおらず、海洋放出しか選択肢はなかった。来年の春には満杯になる。最後は南相馬や仙台の方に向けて、簡単に言うと潮の流れに向けて海洋放出するということになります」と話す。

 まず大きな問題は、環境に与える影響の大きさだ。東電はこのトリチウム汚染水を100倍以上に希釈し、世界保健機関(WHO)が定める飲料水の基準の6分の1程度(1リットル当たり1500ベクレル)より低くするという。

 ジョー氏は「科学的な見地から言えば『安全』ということになるが、今回はまた『特殊なケース』ですよね。事故を起こす前の原発でも、格納容器を冷やすための水は使われていて、それを海洋放出していました。ただ、今回は『デブリに直接触れた水』を1回、処理してきれいにするとはいえ、海洋に捨てるということになる」と指摘する。専門家も非常に問題視している。

 これが住民との対話や国民的な議論などがほとんど行われないまま、海洋放出されることに大きな危機感があるという。その中でも大きいのは漁業への影響だ。

 2021年3月で漁業の試験操業が終了した。「簡単に言うと『国からの支援を終えて、自分たちでまだ漁業で生活していく』ということ。これまでは国の買い上げとかあったんですけど、いよいよ『自分たちでやってくださいね』ということです」(ジョー氏)

 ようやく自立できたタイミングで処理水の海洋放出が行われるということになれば、また魚介類の買い控えなどの“風評被害”が出てくる可能性は非常に高い。

「その補償に関しても、まだ具体的には決まっていません。今、決まっているのは『風評被害が出たら補償しますよ』というレベル。ここも早急に話し合いを行わないといけません。でも放出ありきの状況となっています」(同)

 そもそも、現在タンクにためられている約7割のトリチウム汚染水が十分にろ過されておらず、放射性物質を含むままの汚染水であることが分かっている。今後も、事故処理には大量の水が使用され、雨水などで汚染水が出続けるのは明らか。一度、海洋放出が決定すれば、廃炉までは永遠にトリチウム汚染水は出続ける。東京電力は廃炉を「2050年まで」と目標を立てているが、すでに工期は遅れている状況だ。このトリチウム汚染水問題はのっぴきならないところまで来ている。

 ジョー氏は「どんどんと事故の記憶が薄れていますが、いまだ問題は何も解決していないままです。国民が継続的に注視していくことが必要だと思います」とまとめた。

 (このほかにもフクイチの抱える大きな問題について東スポnoteで特集予定です)