ウクライナ侵攻を続けるロシアで、国際ハッカー集団「アノニマス」がロシア国営放送を乗っ取り、ウクライナの悲惨な様子を放送するトラブルが発生。これがネット上で拡散し、“正義の義勇軍”として称賛されている。非常に高いハッキング能力を持つといわれるアノニマスには、世界中から「ロシアの軍事システムを無力化してくれ!」との声が相次ぐ異例の事態になっている。 

 資を搬入する計画。ロシアとの合意に基づく市民退避は初めて。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は8日、ウクライナから周辺国への避難民が200万人に達したと発表した。

 一方、ウクライナ侵攻をめぐる厳しい情報統制を敷くロシアで、高視聴率を誇るロシア国営放送がハッキングされ、ウクライナ侵攻の惨状が数十秒間にわたって放送された。6日に国際ハッカー集団「アノニマス」がツイッターで声明を発表し、世界中に拡散された。

 これには反戦意識を共有するネット住民が大盛り上がり。「アノニマスかっこよすぎる」「ロシア国内の情報統制を破ってプーチン打倒だ」など、アノニマスを称賛する声が相次いだ。特に期待が大きいのは、ロシアの核ミサイルを中心とした軍事システムの無力化だ。

 ITジャーナリストの井上トシユキ氏はこう話す。

「理論的にものすごく高いハッキングスキルを持っていれば、最高レベルのセキュリティーを突破して、原発だろうが核ミサイルだろうが何でも遠隔操作して乗っ取ることは可能です。“プーチン宮殿”のセキュリティーに侵入すれば、公務から離れてくつろぐプーチン大統領を監視カメラを通して全世界に配信することもできる。アノニマスがどこまでできるか、お手並み拝見ですね」

 アノニマスはIT分野で特別な才能を持つ“超”がつくスーパーオタク集団とみられている。「越えられない壁はない」を信念に、目の前に難題があれば何でもクリアして、称賛を浴びたいという承認欲求も強い。それだけにハッキングの痕跡を消す必要はなく、多少強引な手法もお手のものだ。
「アノニマスはロシアの最重要機密=核ミサイルシステムへのハッキングを本気で目指しています。これを達成したら、彼らにとって大きな自信と名声にもなる。戦地ではない世界のどこかの部屋にいるオタクが世界平和に貢献する、そんなドラマや映画のようなことが実現するかもしれません」(井上氏)

 現代の戦争はハイブリッド戦と呼ばれ、武器を駆使した軍事力だけでなく、サイバー技術を駆使した情報戦も重要になる。マッチョなロシア兵たちが極寒の地を侵攻している一方で、スーパーオタクたちは暖かい部屋からパソコン一つで戦えてしまう時代なのだ。

 ただし、アノニマスは決して“正義の義勇軍”ではない。

「もし、アノニマスがロシアの核ミサイルシステムをハッキングして無力化することに成功すれば、一時的にはロシアを食い止めた英雄になるが、一方で各国にとって相当な脅威になる。彼らはハッキング対象に善悪の判断をしないんです。悪用する可能性を否定できません」(井上氏)

 とはいえ今のところ、アノニマスはロシアを敵対視してハッキングによる攻撃を続けている。すでに今回の侵攻の作戦書とみられる文書を流出させたり、ロシア国内のガソリンスタンドをハッキングしたりして「プーチンくたばれ! ウクライナに栄光あれ」と給油機の電光掲示板に表示させるなど、やりたい放題。今後もアノニマスはロシアの重要拠点を狙ってハッキングを仕掛けるとみられている。