神奈川・川崎市日進町の簡易宿泊所で17日未明、2棟が全焼する火災が発生し、死者4人、19人の重軽傷者が出る惨事となった。噴き上げる火柱の前に消防隊は手がつけられずに鎮火まで17時間も要した。大火災を招いた原因はどこにあったのか? 防災アナリストが分析した。
日進町はドヤと呼ばれる日雇い労働者向けの簡易宿泊所が立ち並ぶエリアで、火元となった「吉田屋」と延焼した隣接する「よしの」には当日、宿泊者名簿に74人の名前があった。営業開始は吉田屋が1961年、よしのが翌年で、ともに木造2階建てだったが、2階部分を改装し、3階建てとなっていた。布団とテレビが置かれた3畳ほどの部屋が、吉田屋は54室、よしのには64室あった。
現場を視察した元東京消防庁消防官で防災アナリストの金子富夫氏は「2階から3階が吹き抜けだったようで、煙突効果といわれる火が回りやすい構造だったのに加え、築数十年もの木造施設は、生活や環境汚れで木が油っこくなり、燃えやすくなる」と指摘する。吉田屋の玄関付近で出火したとみられるが、失火か放火なのかは不明で、川崎署は出火原因を調べている。
この10年で多数の死傷者が出た施設火災は、グループホームや病院など高齢者や体が不自由だったために逃げ遅れるなどして、被害が拡大したケースが大半を占める。今回の2棟でも宿泊者の9割が生活保護受給者で大半が60歳以上だった。3階から飛び降りた人も多くいたが、動けずに火や煙に包まれてしまった人もいたとみられる。
2棟とも消火器や火災警報器は備え付けられていたが、消防法によるスプリンクラーや屋内消火栓の設置義務対象外の施設で、ともに設置されていなかった。「昨年、消防署が立ち入り検査して、違反はなかったというが、2階建てで届けられているのに勝手に3階建てとなっていたことになぜ注意がなかったのか? 結局、なれ合いになっていたのでしょう。予防指導が徹底されていたとはいえない」(金子氏)
また隣の宿泊所まで延焼させてしまった消防活動にも疑問の声が上がる。通報を受け、川崎署は消防局を通じて消防車21台を出動させていた。「本来ならば1棟で消火できたハズで、難しい防御(延焼阻止)ではない。最近にない大きい火災であらゆる面で、戸惑ったのではないでしょうか。首都直下地震で下町や木造密集エリアではこのような火災があちこちで起きる。川崎署の対応を見て分かるように消防任せにはできない。自己防衛が必要なんです」(金子氏)。今回の火災は人ごとでも特殊な事案ではない。
川崎の簡易宿泊所「大火災」招いた原因
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