「こう見えてきれい好きなんだよ」――。いまや全国的に有名となった名古屋市のゴミ屋敷の家主男性(59)の1日はどんな生活なのか。本紙記者が15日、密着してみた。名古屋市職員がゴミの片付けの手伝いに来るなど、変化の兆しがあったが、家主は午前中だけで片付けを終了。近隣から来た「あんたを助けたい」と申し出る男性とは口論し、警察官が駆けつけた。取りつく島もない様子は相変わらずだが、趣味の英語については冗舌。本紙記者らに手作りラーメンをふるまうなど、ゴキゲンな1日を密着リポートする。

 午前5時に起床したという家主は午前8時ごろ、歩道にはみ出たゴミを片付け始めた。大型のラジオチューナーやDVDレコーダーが見つかるも、雨に濡れて使えそうにもない。しかし「もともと使うつもりじゃない。部品を売るために拾ってきたんだ。それは捨てちゃいかん」と、ゴミではなく資源だと主張した。


 一事が万事、この調子。ゴミ山からバックルの壊れたベルトが見つかると「直せば使える」と今度は直すためのドライバーをゴミ山から発掘。時間をかけて修理し、ベルト代わりに身につけていたビニールひもと交換。そのひもは「傘を束にするときに使えるでしょ」と捨てなかった。


 午前11時前に名古屋市役所が行政指導に訪れた。出先機関の土木事務所職員が家主にゴミの一時的な預かりを提案。家主は渋々応じ、一部のゴミは土木事務所に持って行かれた。ところが、だ。そこに同市の別の区からニュースを見た年配男性が「あんたを助けたい」と現れた。親切心が行き過ぎたのか、勝手にゴミに手を出し、家主はこれに「なんだバカヤロー」と激高。男性が「お前にバカヤローと言われる筋合いはない」と応じて口ゲンカが勃発した。


 近所住民の通報により警官が駆けつけ、正午すぎには片付けが中断。いったん引き揚げた名古屋市関係者らが午後3時ごろ再来し、家主の説得に当たったが、家主は「今日はもう疲れた」と最大の掃除のチャンスを終わらせた。職員は「もうひと箱でも持って行きたかったのですが…残念です」と週明けに出直すとうなだれて帰った。

 偏屈ジジイにみえる家主はどんな人生を送ってきたのか。

  名古屋市に生まれ、地元中学、高校を卒業、大学進学のため上京。高円寺に住んだ。卒業後は実家に戻り、父親が経営していた会社に就職。大阪の同業会社へ修業のため2年半ほど行った。再び実家に戻ると常務として仕事にまい進。だが、27歳のときに会長だった父親が亡くなった。

 家主は口を濁すが、その際に家族経営だった会社でトラブルが発生。家主の手元には今やゴミ屋敷になった一軒家と、父親のBMW、いくらかの資産が残った。現在、家主は自分の貯金と、母親(88)に管理を任せている資産で生活している。BMWは手放し、友人のスクラップ業を手伝ったり、パチプロだった時期もあるが、30歳以降はほとんど無職だという。


 このころからゴミ(本人いわく資源)を集めだす。最近は報道陣が集まるので日常生活を送れないが、普段の一日はこうだ。午前5時に起きて、小型ラジオで英語番組を聞く。本紙記者にも「ウルトラマンは“ア”ルトラマンと発音するんだ」と成果を力説。近所のハーフの少年が“英語の先生”だという。英語番組は朝昼晩あり、ラジオを聞きながら、英語をつぶやいていた。


“資源”が拾える場所をめぐるのも日課。夕方から夜には近所のスーパー銭湯にも行く。この日は行っていないので毎日ではない。洗濯は手洗いだ。たばこは1日1箱「KENT」の1ミリを吸う。コーヒーも好物で「その2つがあれば腹が減らない」ので1日1食だ。


 その1食にお相伴にあずかった。家主は拾ってきたピカピカの鍋を見せ「磨いてきれいにした。こう見えてきれい好きなんだ」と笑う。鍋にペットボトルで水を注ぐ。水は近所の公園で調達したもの。拾ったコンロで「サッポロ一番」のカレーラーメンを作り始めた。アクセントに溶き卵を追加。いつどこで買った卵かは聞けなかった。午後11時すぎまでいた本紙記者を含む3人に、紙コップに分けてふるまった。


 帰り際「どうせ(名古屋に)泊まりなんだから、もっといたらいいじゃないか」と、まるで“ウチに泊まっていけよ”と言わんばかり。だが、泊まるスペースなどもちろんない。もともとは裕福な育ちのためか、おもてなしの精神にあふれている。根っからの奇人ではなさそうだ。