台風で危険性が高まる!? 噴火警戒レベルが2(火口周辺規制)へ引き上げられた箱根山(神奈川県箱根町)では11日も、体に感じるものを含めて少なくとも36回の火山性地震を確認するなど、活発な火山活動が続いた。有感地震の発生は2日連続。気象庁は、蒸気が噴出している大涌谷周辺での小規模な水蒸気噴火に警戒を呼び掛けている。そんな折、台風6号が接近する。豪雨や気圧の変化が水蒸気爆発を誘発する実例があるにもかかわらず、地元は風評被害の払拭に躍起だ。危険な状況での実益優先の姿勢に批判の声も高まってきた。



 気象庁は、有感地震が続いたことについて「マグマの活動に関係があるとされる低周波地震や火山性微動の観測はなく、火山活動に大きな変化があったわけではない」と説明している。また、11日の火山性地震は午後3時までに36回を確認。このうち体に感じる震度1を観測したのは箱根町で、発生時刻は午後2時15分ごろ。震源の深さはごく浅く、地震の規模を示すマグニチュード(M)は1・3と推定される。


 一方、国土地理院は同日、大涌谷付近が3月より最大約8センチ隆起していることが新たに分かったと発表した。


 箱根町の山口昇士町長(70)はこの日、地元の観光業者との観光振興の会合「HOT21観光プラン推進委員会」を開き「風評被害を払拭するためのオール箱根による対応を行いたい」と対策を協議した。


 現在、観光スポットである大涌谷の半径300メートルが立ち入り禁止のほか、「箱根ロープウェイ」が全線運休、周辺の自然歩道が閉鎖されるなどしている。そんななか、箱根町は11日、半径約300メートルの範囲に出している避難指示区域に温泉供給業者などが一時的に立ち入る許可を、範囲を限定して12日から再開することを決めた。最も蒸気が強く出ている場所から半径200メートル以内への立ち入りは引き続き認めない。山口町長は「温泉観光地として人命と観光業という、相反する命題を解決するためのギリギリの判断」とした。


 箱根町はまた「気象庁の警戒レベル発表は大涌谷の噴気地帯に近い場所のごく一部への立ち入りを規制するためのもので、箱根の他の地域まで規制が及ぶものではない」として、他のエリアについては従来通りの観光を呼びかけている。


 災害対策アドバイザーの金子富夫氏は「報道を見ても、地元商店の売り上げ減や観光客の不満などばかりが取り上げられている。町長も地元への政治的配慮があるかもしれないが、目の前に危険が迫っているかもしれないという時に、なぜ命の安全よりも“風評被害”とお金の話が先に出るのか? しばらく事態が落ち着くまで待つという判断ができないのか。危機管理の本質的な心構えが欠如している」と指摘する。


 火山活動は予知が難しいとされ、昨年の御嶽山のように火山性地震が一時的に収まった後に突如、噴火した例もある。


「(地元自治体は)正しい情報を伝えることが大切であって、それを観光客が自己責任で判断すればいいことだけ。この段階で『安全だから来てください』と何の責任を持って、言えるのか」(金子氏)


 また日本列島を縦断する恐れがある台風6号も不気味だ。箱根山周辺には12日夜から13日にかけて、直撃する進路を取っている。過去には、台風による豪雨が地下に入り込んでマグマの上にたまり、水蒸気爆発が起きた可能性のある事例もみられる。台風襲来のタイミングで温泉供給業者限定かつ「命を最優先」とはいえ、立ち入り許可とは…。


 2004年に浅間山が噴火した際、専門家からは「台風による集中豪雨と気圧の低下が誘発した」との声もあった。


 万が一、噴火と台風が同時に来た場合、最悪の組み合わせとなる。


 関係者は「1991年のフィリピンのピナトゥボ火山の噴火では同時に台風が来た。噴出した火山灰が豪雨と混ざり、重いコンクリートのようになって降ってきて、家々を潰した。石が強風で飛散した。堆積した火山灰が火山泥流となった」と指摘する。


 噴火が予測しにくいうえ、台風まで来るとなれば、絶対に安全とは言い切れないだろう。観光業者は死活問題とはいえ、安全アピールが過ぎる姿勢も困りものだ。