愛知県弥富市の市立中で3年の伊藤柚輝さん(14)が刺されて死亡した事件で、逮捕された同学年の男子生徒(14)が、伊藤さんに「嫌なことをされ、恨みを募らせていた」との趣旨の供述をしていることが25日、分かった。少年事件のため、警察が発表する情報が限られているが、現時点でも明らかな疑問点がある。なぜ法を破ったのに校則を守ったのかだ。一般人には考えられない行動について、専門家が分析した。

 殺意は明確だ。伊藤さんが男子生徒と向き合った姿勢で正面から腹を刺されたとみられ、傷は肝臓を貫通し、腹部の大動脈や脾臓も損傷していた。県警は強い殺意があったとみて、他の生徒からも話を聴くなどして供述の裏付けを進める。

 県警は25日、殺人容疑で男子生徒を送検。また、同日までに弥富市内にある男子生徒の自宅を家宅捜索した。

 男子生徒は24日午前8時ごろ、校内で刃渡り約20センチの包丁で伊藤さんを刺したとして、殺人未遂容疑で現行犯逮捕された。捜査関係者によると、凶器の包丁を「事前にインターネットで購入した」と供述。事件当日、周囲に知られないように自ら学校に持参したとみられる。

 現場の学校は他の教室へ立ち入ってはいけないとのルールがあることも判明。男子生徒はこのルールを守り、教室にいた伊藤さんを廊下に呼び出して襲ったとみられる。伊藤さんは教室に近い廊下で刺された後、出血しながら自力で教室に戻った。病院に搬送され、同10時35分に出血性ショックで死亡した。

 疑問なのは、男子生徒が法律を大きく破った殺人行為を犯したのに、その前になぜ「別の教室に入ってはいけない」という取るに足らない校則をきちんと守ったのだろうか。

 日米で連続殺人犯、大量殺人犯など数多くの凶悪犯と直接やりとりしてきた国際社会病理学者で、桐蔭横浜大学の阿部憲仁教授はこう語る。

「あなた自身が、もしこれから誰かを本当に殺害すると揺るぎないまでに確信しているとしたら、現場に向かうまでの間、交通ルールを無視して荒々しく車を運転するだろうか? 答えはノーのはずだ。行くまでに警察に捕まってしまっては計画が遂行できなくなるし、何よりも殺害行為そのものを成就するため“エネルギーの浪費”を避けるはずだ。また、もしその人間と既にもめているとしたら、できるだけ相手の抵抗を避けるため、仲直りのフリすらして相手をおびき出すのではないだろうか」

 つまり、“確信的犯行”というのは殺害という“ゴール達成”の一点に集中しているというわけだ。だから、目的達成後は、駆け付けた教員の指示に素直に従って、警察にも犯行を認めたのだろう。

 またもう一つの疑問は、なぜ凶器の包丁を周辺の店では買わずにネットで購入したのか。一般の人だと、到着までの数日の間に、怒りが冷めて犯行を取りやめにするかもしれない。

 阿部氏は「店で買うと怪しまれると思ったのが一つ。そして、今のところ、犯行動機は被害者により『嫌なことをされた』ことに対する復讐であり、あくまで“反動的攻撃性”だ。無差別殺人のような加害者が既に自分自身で抱えている“恒常的攻撃性”によるものではない。被害者を複数回、しかも肝臓を貫通させるほど刺していることから、加害者の怒りは数日では風化しないほどに相当根深いものであったことが分かる」と指摘する。

“冷却期間”として働くはずの包丁到着までの日にちが、むしろ犯行イメージをより強固にしたのかもしれない。