群馬県前橋市の群馬大病院での腹腔鏡を使った肝臓がん切除などの手術を受けた患者8人もの死亡事故、東京・新宿区の東京女子医大病院での2歳10か月になる男児への麻酔薬プロポフォールの大量投与による死亡事故など、病気を治すはずの病院での悲劇の発覚が続いた。医師のミスはもちろんだが、ミスではないのに死亡することもあるという。それが、造影剤を使ったエックス線検査だ。専門家は「決定的な対策はなく防ぐことはできない」と驚がくの事実を告げた。

 東京・新宿区の国立国際医療研究センター病院(東京都新宿区)で昨年4月に気になる事故が起きた。造影剤の誤使用で女性患者(78)が死亡した医療事故だ。東京地検は今年3月上旬、業務上過失致死罪で、整形外科に勤務していた女性医師(30)を在宅起訴した。


 起訴状によると、女性医師は昨年4月16日、脊髄造影検査で脊髄への投与が禁止されている「ウログラフイン」を、禁止を確認せずに使用し、死亡させたとしている。女性は投与後にけいれんを起こして意識を失い、同日夜に死亡した。地検によると、ウログラフインには「脊髄に投与すると重い副作用の可能性があり、使用してはならない」と明記されていた。


 女性医師は造影剤の禁止事項を知らなかったとみられ、この事故は完全に医療ミスと言える。ところが、ミスをしなくても悲劇は起こる。


 愛知県の常滑市民病院で昨年6月3日、造影剤を投与された直後、小学1年女児(6)が死亡したのだ。急性アレルギー反応「アナフィラキシーショック」を起こしたとされる。


 造影剤はエックス線などによる画像診断検査の際、結果が明瞭に出るよう使用される。胃の検査で使われるバリウムなど、経口や注射で摂取する。ベテランのレントゲン技師A氏に話を聞いた。


「造影剤を使う前は、承諾書にサインしてもらうし『最悪の場合、死ぬこともある』という趣旨が書いてるけど、まさか死ぬなんて患者は思わない。死亡例は本当にまれだから、医師も真剣に説明してない」


 A氏は「造影剤による軽い副作用ならよくある」と証言する。くしゃみ、吐き気、じんましんなどが「軽い」ものだ。重い場合は心筋梗塞や呼吸困難に陥る。さらにひどいと、死ぬ。


 経験上、考えられる要因を挙げてもらった。


「造影剤の種類で副作用が出やすいものがある。造影剤にもジェネリックがあるのはあまり知られてない。病院によっても種類は様々。濃度、量、入れる速さが上がれば、副作用も出やすくなる」


 では、副作用の出なかった造影剤を使い続ければ問題ないかといえば、違う。「今までの検査で何十回と平気だった造影剤でショック死する人もいる」。ジェネリックや異なる造影剤に切り替える場合「患者への告知は基本的にはしていない」そうだから恐ろしい。


 アナフィラキシーショックは造影剤注入の数分後に起こることが多いようだ。副作用が起きた場合、医師が点滴などの処置をする。


「24時間で造影剤は99%以上、体から排泄される。それ以降は副作用は出ない。検査後、3~4時間で出る人もいる」。病院から帰宅後に軽い副作用が出て驚くこともあるというわけだ。


 過去に副作用が出た人や喘息持ちの人の使用は原則禁止だが、「造影剤を使わないと判断できない病気も残念ながら存在する。超音波やMRIにも造影剤はある」。検査しないと治療の対策は取りようがない。医師が患者のためを思って、使用を決断する場合もある。


 現時点で対策はなく、発現のメカニズムもよく分かってないという。発現の確率は、ハッキリしたことは不明ながら、数百万分の一。とはいっても最悪の場合、死亡したり、副作用が出る可能性もあることを知っておくことは重要だ。