オーストラリアの海岸で9日、サーフィン中の日本人男性がサメに襲われ、死亡する事故が起こった。季節が夏の同国は海水浴などを楽しむ観光客が多く、サメが人を襲う事例は少なくない。獲物をかむ鋭い歯が強調されがちなサメだが、恐ろしいイメージとは裏腹に意外な一面もあった――。

 事故があったのは、オーストラリア東部ニューサウスウェールズ州バリナのビーチ。地元警察によると、死亡した男性は41歳の日本人と確認された。地元メディアは男性の氏名を「ナカハラ・タダシ」と報じている。

 連絡を受けて現場の「シェリービーチ」に駆け付けたというバリナに住む日本人の知人は、「水から引き上げたが、間に合わなかったようだ」と話した。地元メディアによると、男性は海に入りサーフボードの上に座っていたところをサメに襲われたとみられる。両脚をかみちぎられた状態で近くにいたサーファーらに引き上げられ、人工呼吸などの救命措置を施されたが、出血多量による死亡が確認された。

 襲ったサメはホオジロザメで全長3・5~4メートルとみられる。現場はクイーンズランド州との境界に近い、ニューサウスウェールズ州北部。周辺のビーチは閉鎖された。ニューサウスウェールズ州では最近、サメが目撃されたり、人が襲われたりするケースが相次いでいる。

 ホオジロザメといえば映画「ジョーズ」のモデルになったサメ。8日にも、現場から北に25キロほど離れたセブンマイルビーチでサーフィン中の男性(35)がホオジロザメに背中や臀部を襲撃され負傷する事故が発生していた。

 地元メディアによると同州では10か月間で3度もサメによる死亡事故があり、バリナの市長は日本人を死なせたサメについて「昨日、男性を襲撃したサメと同じ可能性が高い」と話している。

“人食いザメ”のイメージが強いホオジロザメだが、オーストラリアの研究者は意外な生態を指摘する。

「ホオジロザメは人を食べるわけではない。アザラシや海ガメと誤認し、とりあえずかみついてみて、味を確かめるという行動なんです。人間は食べ慣れた味ではないから、すぐ去る。ただ、そのひとかみが致命傷になるかならないかが、助かるかどうかの差になるわけです。サメによる事故を調査したところ、4人のうち3人は助かっています」

 黒いウエットスーツを着ているとアザラシやアシカに、サーフボードに乗っていると海ガメに誤認されるのではないかとされている。

 オーストラリアのサメ被害は米国に次ぐ多さだ。「シャーク・ダイブ・エクストリーム」というサメと一緒にダイビングを楽しむ観光のオプショナルツアーが人気となっている。その半面、ダイビングやサーフィン、シュノーケリング中にサメに襲われる事故が後を絶たない。

 西オーストラリア州では昨年、サメの被害が深刻なことからサメの駆除を始めた。172匹を捕獲、50匹を殺処分したと公表。今回、現場となったニューサウスウェールズ州でも、地元民らの要請で、ドラム缶と餌付きの針をつないだチェーンを海底に固定したドラムラインを設置し、サメの捕獲作戦を推し進めていたところだった。

 前出の死亡した日本人男性の知人によると、故人は東京都出身でオーストラリア在住が長く、数年前からバリナで、1人で暮らしていた。ホテルやレストランで清掃業の仕事をし、サーフィンの愛好者だったという。

 現地の海を知っているとみられる人でもサメに襲われる。日本の観光客も細心の注意が求められる。