【イスラム国】パイロット残虐焼殺 ヨルダンは報復を宣言

2015年02月05日 07時30分

「イスラム国」を名乗るグループが3日午後(日本時間4日未明)、拘束中のヨルダン軍パイロット、ムアーズ・カサスベ中尉(26)を殺害したとする映像をインターネット上で公開した。中尉とみられる人物がおりの中で“火あぶり”にされる場面が含まれている。ヨルダンメディアによると同国軍報道官は中尉の死亡を確認し、報復の意思を表明。軍によると中尉が殺害されたのは1月3日で、同国政府が収監中のサジダ・リシャウィ死刑囚と引き換えに、中尉やフリージャーナリスト後藤健二さん(47)の解放を模索していた際、中尉は既に死亡していたことになる。

 これまで何度も残忍な人質殺害映像を流してきた「イスラム国」だが、それに輪をかけた地獄絵が現れた。

 背景にがれきが映る平地におりが設けられ、オレンジ色の服を着たカサスベ中尉とみられる人物が閉じ込められている。地面には導線が敷かれ、離れた位置からイスラム国の兵士とみられる人間がたいまつで着火。火は導線を伝っておりに達すると足元からカサスベ中尉を包む。立ったまま身もだえする中尉。火が黒煙を交えて燃え広がると膝から崩れ落ちた。時間にしてわずか1分あまり。最後はブルドーザーが遺体を潰す惨劇だった。

 何よりもむごさを物語るのは、この模様をカメラが揺れることもなく、アップ気味の画面も交えて平然と映し続けたこと。改めてイスラム国の非道ぶりを世界に広める映像となる。

 当事国のヨルダンをはじめ国際社会の憤りもすさまじい。オバマ米大統領は中尉の遺族らに哀悼の意を表明し、イスラム国打倒に向け「有志国連合が結束して立ち上がらなければならない」とする声明を発表。ロイター通信は3日夜(同4日早朝)、ヨルダン治安筋の話として同国政府が「数時間以内」にリシャウィ死刑囚の死刑を執行すると伝えた。

 カサスベ中尉の存在がクローズアップされたのが1月24日。後藤さんとともにイスラム国に拘束されていた千葉県の湯川遥菜さん(42)の殺害声明が流れ、イスラム国側はそれまでの身代金要求を翻し、後藤さん解放の交換条件としてリシャウィ死刑囚の釈放を求めた。

 同死刑囚と後藤さんだけの交換には応じられないヨルダン側は、カサスベ中尉を最優先に“複数交換”も視野に解放に動く。イスラム国側は現地時間1月29日日没までにリシャウィ死刑囚をトルコ国境まで連れてこなければ、中尉は殺されると警告したが、ヨルダン側は応じない。後日、中尉ではなく後藤さんの殺害声明が画像とともにネットに流された。

 この間、イスラム国側は声明で、「パイロットの(残された)命は少ない」などと殺害を急ぐような脅しをかけたが、実は“ハッタリ”だった。リシャウィ死刑囚釈放の用意もあったとみられるヨルダン側は再三、中尉が生存している証拠を示すよう要求したが、イスラム国側の反応はなし。それもそのはず、中尉は1か月前に命を奪われていた。

 中尉はヨルダン中部のカラク出身。拘束されたのは昨年12月24日で、米軍など有志国連合のイスラム国への空爆作戦に戦闘機で出撃し、イスラム国“首都”のシリア北部ラッカ近郊を飛行中にミサイル攻撃を受け乗機が墜落、拘束された。

 米メディアによると、中尉の拘束後、ヨルダン軍はイスラム国への空爆を停止。ヨルダンの国会議員が「どんな犠牲を払っても救出する」と語り、首都アンマンで国会議員や親族らが帰還実現を求めて集会を開くなど、救出は国民の関心事になっていた。米軍特殊部隊が救出を試みて失敗に終わったとの報道もある。

 アブドラ国王が「ヨルダンの息子」と呼ぶ中尉の救出は、国家の最優先課題だったヨルダン。メンツをつぶされた格好にもなり、国民の怒り沸騰は避けられない。リシャウィ死刑囚が処刑されれば、イスラム国側もさらなる反撃に出ることが考えられる。

 カサスベ中尉の父サフィさん(67)は先月29日の会見で「(息子を)許してほしい」と解放を呼び掛けた。後藤さんの妻も同じ日に「夫と中尉の無事を祈っています」と声明で訴えた。2人の命が失われ、悲しみは広がった。