【マンデー激論】筆者が1985年に外務省に入省した年の秋のことだ。研修先の情報調査局(現・国際情報統括官組織)情報課の先輩からこんなやりとりがあった。

「佐藤君、『自殺の大蔵、汚職の通産、不倫の外務』という言葉を聞いたことがあるか」

「ありません」

「霞が関で、大蔵省(現・財務省)は自殺者が多く、通産省(現・経産省)は汚職が多く、外務省は不倫が多いという現象を指しているが、この背景には独自の組織文化がある」

「どういうことでしょうか」

「超エリート集団で組織規律が厳しい大蔵省ではストレスから自殺に追い込まれることがないように職員のメンタルについては配慮するという意味だ。経産省では汚職に巻き込まれることを恐れて業界関係者と付き合うことに臆病になると業界の実情がわからずに国益を毀損することになるから、職員は思い切って業界と付き合えということだ」

「不倫の外務とはどういうことでしょうか」

「外務省は、異性関係に関しては仕事に悪影響が出ない限り無関心だが、メンタルや汚職については厳しいということだ」

 他省のことはよくわからないが、確かに外務省は、異性関係のプライバシーは尊重される文化があり、不倫や離婚が出世に響くことはなかったが、メンタルとカネに関しては、厳しかった。

 連日、週刊誌、新聞やテレビのワイドショーが、2人の経産キャリア官僚(いずれも28歳)の汚職について大きく報じている。

<コロナ禍で売り上げが減った中小企業の関係者を装い、国の「家賃支援給付金」をだまし取ったとして、警視庁は25日、経済産業省のキャリア官僚の男2人を詐欺容疑で逮捕し、発表した。給付金は中小企業や個人事業主の倒産を防ぐために同省が打ち出した施策で、迅速な給付を優先するため審査を簡素にしていた。警視庁は2人が施策を悪用したとみている>(6月26日「朝日新聞」朝刊)。

 この事件は仕事で業界との関係に深入りして生じたものではない。

 官僚の犯罪というよりも、犯罪性向が高い2人が、私的利益を追求するために経産省に潜入してきたとしか思えない。徹底的な捜査の上、刑事責任をきちんと取ってもらう必要がある。

 ☆さとう・まさる 1960年東京都生まれ。85年、同志社大学大学院神学研究科を修了し、外務省に入省。ソ連崩壊を挟む88年から95年まで在モスクワ日本大使館勤務後、本省国際情報局分析第一課で主任分析官として活躍した。2002年5月、背任容疑などで逮捕され、09年6月に執行猶予付き有罪判決が確定した。20年、「第68回 菊池寛賞」を受賞。最新著書は池上彰氏との共著「真説 日本左翼史 戦後左派の源流1945―1960」(講談社現代新書)がある。