朝日新聞が東京電力福島第1原発事故を巡る「吉田調書」報道の記事を取り消した問題で、同紙の第三者機関「報道と人権委員会」(PRC)は12日、「重大な誤りがあり、記事の取り消しは妥当」との見解を発表し、記事掲載までのずさんな内情も明らかになった。

 朝日は吉田昌郎元所長の事故調書を入手し、今年5月に「所員の9割が所長命令に違反し、撤退した」と報じたが、9月に記事を取り消した。PRCは「“所長命令に違反した”と評価できる事実は存在しない」「ストーリー仕立ての記述は取材記者の推測」とした。

 また記事掲載までに編集部内で吉田調書は“特定秘密”に指定され、事実上2人の記者しか調書を読み込んでいなかった事実も明らかになり、誤報の指摘を受けた後の対応も「批判や疑問が拡大したのに危機感がないまま迅速な対応をせず、社外の信頼を失う結果になった」と批判した。

 PRCの見解を受け、13日付の各紙も朝日を断罪した。「特ダネの根幹をなす資料を、取材者以外に誰も精読しなかったことに首をかしげざるを得ない」(読売新聞)、「記者の推測に基づく報道が、会社の体質や同社の報道姿勢とどうかかわっていたのか、踏み込んだ分析がなければ、再び同じ過ちを繰り返す」(産経新聞)

 朝日問題で、従軍慰安婦報道は別の第三者委員会が年内にまとめる見通し。木村伊量社長(60)は今週中にも退任発表し、12月5日の臨時株主総会で了承される見込みだ。朝日は13日付の紙面で次期社長候補と目される西村陽一取締役編集担当が「PRCから厳しいご指摘を受けました。朝日新聞はこの『見解』を真摯に受け止めるとともにみなさまに改めて深くおわび申し上げます」と謝罪する一方、「慰安婦報道や池上彰氏のコラム掲載見合わせなどをめぐる第三者委員会の検証結果も踏まえて、朝日新聞の再生プランを早急にまとめたいと思います」と早々と立て直しを宣言。なんとか区切りをつけようとしているようだが、信頼回復までの道は遠そうだ。