噴火の前兆はあった!?長野、岐阜両県にまたがる御嶽山(3067メートル)の噴火による被害者の救助が依然、進まない。長野県警や消防、陸上自衛隊は30日、火山活動が活発化したため捜索活動を断念した。10月1日朝に再開したが、山頂付近には心肺停止状態の24人が取り残されている状況だ。今回、大惨事になったのは噴火予知ができなかったためといわれているが、現地の山小屋の支配人と専門家は「ニオイでわかる前兆があったようだ」と話している。どういうことか――。

 大きくプレートが動く地震の予知と異なり、噴火の予測は極めて難しい。噴火は地中でのマグマの動きに起因する。過去の噴出物の調査研究から判明している噴火の規模や終息までの過程は複雑で、人々の記憶にある噴火とは異なる経過をたどるのが普通だ。

 観測データに異常が出始めても、それが何を意味するかの明確な判断基準はない。監視に当たる側には、多様な経験と豊富な知識に裏付けられた判断能力が求められる。

 御嶽山は9月27日に噴火したが気象庁も前兆がつかめず、噴火の予測が困難だったことが大きな被害をもたらした。11日に地震が観測されてはいたが、マグマの上昇を示すデータは見られず、噴火につながるものではなかったと気象庁の北川貞之火山課長は話している。

 予兆がまったくとらえられなかったのは現場も同様だ。噴火した山頂からわずか60メートルの場所に位置する「二ノ池本館」支配人の小寺祐介氏(34)は語る。

「噴火の日の朝もきれいなご来光が見られました。地震雲のようなものもなければ、動物の異常行動もない。二の池をはじめいくつかある池の水かさにも変化はありませんでした」

 長年、御嶽山を職場としている小寺氏ですら、山の異変には気がつかなかったという。当日は小さな地震で山荘がミシッと揺れたかと思ったら、すでに噴煙が立ち上っていた。本当に前兆はなかったのだろうか。

「硫黄臭がしなかった、という登山客が一部にいるそうです」(小寺氏)

 1979年の噴火をきっかけに、御嶽山の山頂付近では“硫黄臭”が立ち込めるようになった。

「硫黄臭が噴火の前触れだったのでは?」とテレビのインタビューなどに答えている登山客もいるが、これは間違い。“硫黄臭”が漂っているのが御嶽山では通常なのだ。そのにおいが「噴火の前に途絶えていたのでは?」と一部でささやかれている。火山学者が解説する。

「硫黄のにおいと形容されますが、実際は硫化水素のにおいです(硫黄は無臭)。ほかに二酸化硫黄などを主成分としたものが火山性ガスで、地下のマグマに溶けているものが圧力によって地表に放出されたものです」

 このガスが噴火を前にして消えたというのは、どういうことか?

「消えたのではないと推測されます。硫化水素は低濃度ですと、いわゆる卵の腐ったような臭いがしますが、高濃度になると嗅覚を侵され、臭気を感じなくなるのです。つまり山頂周辺で火山性ガスの濃度が急激に上昇していた可能性が高いのです」(同)

 通常をはるかに超えるガスによって、嗅覚が鈍らされた。それがこの噴火のただひとつの前兆かもしれない。

 高濃度の硫化水素を吸い込むと、わずか数分で死に至る。山頂付近で発見された無数の死者は、このガスによって命を奪われた可能性は高い。

 国内には世界遺産・富士山を含む110の活火山があり、登山者に人気の山も多い。対策として考えられるのは、ヘルメットの装着やガスを吸い込まないようにすること。そして、それまで漂っていた“硫黄臭”を感じなくなったら…登山の際には心に留めておきたい。