新型コロナの緊急事態宣言で1都3県の解除時期が取り沙汰される中、10年たっても全面解除がまったく見えないのが原子力緊急事態宣言だ。

 同宣言は、東日本大震災で起こった東京電力福島第1原発の事故を受けて2011年3月11日午後7時3分、菅直人首相が発した。同日会見した枝野幸男官房長官は「予防的措置」「万全を期すということで」発令したと強調したが、10年も続いてきた。同12日に宣言が出た福島第2は過酷事故を免れ、同年12月に解除されている。

 国際基準で最悪の「レベル7」とされた福島第1事故では、11年12月に野田佳彦首相が「発電所の事故そのものは収束に至ったと判断される」と語った。ところが政権交代後の13年、安倍晋三首相は原発周辺の状況も念頭に「収束と言える状況にない」と「収束」を禁句扱いに。

 緊急事態宣言に関しても、安倍氏は今月報じられた時事通信のインタビューで「直ちに出すべきだった」と発言。批判された菅氏は、事故翌年に行われた政府事故調の聴取に「19時3分に発令して(中略)、何か必要な作業が遅れたということも、私はなかったと認識しています」と語っている。

 緊急事態宣言の根拠法は原子力災害対策特措法の第15条。解除は「原子力災害の拡大の防止を図るための応急の対策を実施する必要がなくなったと認めるとき」に行われるとしているが、現実的な課題とならないまま10年が過ぎた。
 昨年12月に参院で「まだ緊急時なのか」と議員が政府側に迫ると、環境大臣政務官が「まだ緊急事態解除宣言までは程遠いというふうに思っておるところであります」と答える質疑があった。

 同政務官は、福島第1に核燃料のデブリが多数残っていることが「程遠い」理由だとした。デブリはその実態すら十分把握できていない。元京都大原子炉実験所助教の小出裕章氏は著書「フクシマ事故と東京オリンピック」(19年刊)で、「この日本という国は、これから100年たっても『原子力緊急事態宣言』下にあるのである」と書いている。 (政治家の肩書は当時)