日本で広く普及している温水洗浄便座について、医師の間から「洗い過ぎはお尻のトラブルを招く」という声が上がるようになってきた。有名な「おしりだって、洗ってほしい。」という名コピーも、決して正しくはないようだ。どういうことなのか? 話題の本「痛み かゆみ 便秘に悩んだら オシリを洗うのはやめなさい」(あさ出版)の著者で、大阪肛門科診療所副院長の佐々木みのり医師に聞いた。

 日本の温水洗浄便座といえば、マドンナやレオナルド・ディカプリオ、ハリポタ俳優のルパート・グリントらもお気に入りだと話題になるなど、海外セレブからも注目されている。

 内閣府による消費動向調査によれば、2人以上世帯の温水洗浄便座普及率は80・2%(2018年3月)。一般の家庭だけでなく、会社、ホテル、駅や公共施設のトイレにも広く普及し、いまや温水洗浄便座は“あって当たり前”の日本名物になっている。

 海外セレブが絶賛したことも普及に一役買ったと思われるが、何よりも大きいのは日本人の清潔志向だろう。しかし「きれいにしたい」という気持ちから温水洗浄をやり過ぎると、お尻をダメにしてしまうという。

 佐々木みのり医師は「温水洗浄便座は、本来一切使わない方が良いと思っています。どうしても使いたいなら、水圧弱く、水温低く、3秒以内、1日1回までです」と語る。お尻は洗わない方がいいというのだ。

 その理由は人間が本来持つ防御機能を低下させるから。人の体は「皮脂膜」という弱酸性の脂分に覆われている。これが水分の蒸発を防ぎ、同時に常在菌(善玉菌)を守りながら、有害な細菌の侵入を防いでくれる。温水洗浄すると、この皮脂膜が洗い流されてしまう。

「皮脂膜がなくなると、皮膚が乾燥してかゆくなり、同時に皮膚バリアが壊れ、細菌の侵入を許して炎症を起こします。炎症を起こした皮膚は硬くなり、伸縮性のない肛門になってしまいます。そのため便を出すときに痛みを伴うようになるんです」

 佐々木医師によれば「以前は筋肉が硬くなって肛門が狭くなり、便が出にくいという人が多かったんですが、温水洗浄便座が普及してから、皮膚が硬くなって肛門が狭くなる人が増加したと思っています。肛門が狭くても便は出ますが、出し切れず肛門に残るようになってしまいます。この出残り便が痔などの病気の原因になるんです」。

 実は肛門科医の間では温水洗浄便座の弊害は以前から知られていた。1991年に「温水便座症候群」という疾患名が提唱され、「お尻の洗い過ぎに注意しましょう」という指導をするようになったという。多くの人は、我が身にトラブルが降りかかるまでこうした情報に接することがないため、あまり知られずにきた。

 佐々木医師は「お尻に不調を感じたら、まずは2週間、洗うのをやめてみてください」と勧める。「洗浄機能を使わず、お風呂でも肛門に直接シャワーを当てたり、せっけんなどをつけるのをやめてみてください。患者さんを診ていると、ボロボロになった皮膚の炎症が治まり、再生するのに2週間ほどかかります」

 またお尻のために、温水洗浄以外にも気をつけた方がいいことが。「トイレでは読書やスマホいじりをせず、5分以内に出るのが理想です。椅子に座るのと違い、トイレでは肛門が座面より下になります。ただ座ってるだけでもお尻がうっ血し、負担がかかります」

 トイレでの習慣を、一度見直してみるのがオススメだ。