北朝鮮の朝鮮中央通信は30日、金正恩第1書記が日本海に向けて朝鮮人民軍・戦略軍の戦術ロケット発射訓練を自ら指揮していたと報じた。日時や場所は特定していないが、29日に2発が発射された短距離弾道ミサイル「スカッド」を指していることは明白だ。北朝鮮は3日前の26日にも、元山付近から韓国が300ミリ多連装砲と推定する物体3発を発射。「新たに開発された戦術誘導弾」の試験発射を正恩氏が視察したと、27日に報じられている。


 1日の日朝政府間協議や3日の習近平中国国家主席訪韓を前にした相次ぐ軍事挑発に正恩氏が直接関与していたことが鮮明になり、関係国が意図を分析している。ミサイル発射後、正恩氏は「いつでも発射できる万端の準備を整えることで、米国や追従勢力の妄動を抑制できる」と訴えた。同通信は、軍事訓練について「地域の平和と安全、航海の秩序と生態環境にささいな影響も与えず順調に行われた」と強調している。


 正恩氏は今年2月と3月にかけて短・中距離ミサイル90発を日本海などに向けて発射してから朝鮮人民軍に対し、軍事訓練を指示することはなかった。


 日朝間の懸案事項解決に期待が持てるこの時期に軍事挑発した背景には、正恩氏が軍の意向に歯向かえない苦しい事情が隠されていた。


 6月25日、正恩氏は昨年5月に人民武力相に大抜てきした張正男(チャン・ジョンナム)氏を急きょ更迭。60代後半の玄永哲(ヒョン・ヨンチョル)元軍総参謀議長を代わりに据える異例の人事を行っていた。


 平壌情勢に詳しい関係者は「正恩氏は昨年5月に70代の金格植(キム・ギョクシク)氏の後釜に50代の張氏を抜てきして自分の力を見せつけていました。しかし、その後に就任した玄氏は、高齢で世代交代の流れに逆行している。正恩氏は経済政策の失敗続きで、軍の力を借りなければ自身の存在を内外に示すことができなくなっています」と明かす。日朝協議は、正恩氏の求心力の低下で一筋縄ではいかないことが予想される。