富山県小矢部市の北陸自動車道・小矢部川サービスエリア(SA)で起きた宮城交通の夜行バス衝突事故で、死亡した乗客で私立金沢高校教諭の小野善広さん(48)が事故直前、座席から立ち上がり小幡和也運転手(37=死亡)に「起きろ、大丈夫か」などと声を掛けていたという複数の乗客の証言があることが4日、捜査関係者への取材で分かった。高速道のバス事故では一昨年、群馬県藤岡市の関越自動車道で7人が死亡、38人が重軽傷を負った。繰り返される惨事を防ぐことはできないのか。



 富山県警によると、小野さんは最前列左側の座席に乗っていた。小幡運転手の異変にいち早く気付き、起こそうとしたとみられる。


 事故は3日午前5時10分ごろ発生した。県警によるとバスは、事故現場から600メートル手前の高速道路本線左側と、160メートル手前のSA進入路右側のガードレールに接触。目撃者らによるとバスはその後、猛スピードでSAに進入し、駐車中の大型トラック2台に相次いで衝突したとみられる。


 県警は小幡運転手が居眠りをしていたか、体調が急変した可能性があるとみて自動車運転過失致死傷容疑などで捜査している。バスは仙台発で加賀温泉(石川県)を目指していた。


 小野さんと小幡運転手が死亡し、乗客とトラック運転手のうち10人が重傷、14人が軽傷を負った痛ましい事故。現場の防犯カメラには、戦慄のシーンが収められていた。


 バスに激突されたトラックは半回転。小幡運転手は、前方が大破した運転席内に閉じ込められた状態だった。


 宮城交通によれば、小幡運転手は昨年10月に睡眠時無呼吸症候群(SAS)の簡易検査を受け、要経過観察の診断を受けていたが、業務に支障はないと判断され、乗車していたもう一人の運転手と矢部川SAで交代を予定していた。


 45人の死傷者を出した群馬県藤岡の高速ツアーバス事故を受けて国交省は昨年法改正し、夜間1人運転の場合は従来の上限距離670キロを400キロに制限し、超える場合は乗務員を2人にするなどの規制強化に乗り出していた。


 高速バスの安全・安心回復プランと銘打っていたが、その直後にまたも悲惨な事故が起きてしまった。


 元東京・大田区議で防災アドバイザーの金子富夫氏は、こう指摘する。


「法改正で格安の高速バス業者は相次いで撤退に追い込まれ、残った業者はブランド化し、よりサービスの向上を求められている。運転手は時間厳守の運行のプレッシャーにさらされ、安い給料、過酷なシフトを強いられている。国の締め付けがバス会社に厳しくなった分、しわ寄せが末端の運転手に来ている」


 藤岡の関越道事故の後も昨年3月、長野県飯田市の中央道で、スキー客を乗せたバスが大型トラックに追突し、十数人が負傷。同年7月には、宮城、栃木両県の東北自動車道でバス事故が2件相次ぎ、それぞれの運転手2人が死亡、計16人がけがをした。


 藤岡の事故では、居眠り運転をしたとされる運転手が自動車運転過失致死傷罪などに問われた。運転手は鑑定留置でSASと診断されている。


 そのSASの検査も各事業者の努力義務で、今回のように精密検査の実施までは軽視される傾向もある。今回の事故を機に、SAS検査の義務化も含めた健康管理のあり方もあらためて問われることになる。