【アツいアジアから旬ネタ直送 亜細亜スポーツ】香港に対する国家安全法の導入、米国との対立姿勢など“アフターコロナ”の覇権に向け動きだした中国だが、国内での話題は実にほのぼの。「コロナとの戦いに貢献した人々への“論功行賞”が盛んに行われている。特に感染リスクを顧みず現場の第一線で働いたナースに、さまざまな優待を贈る動きが起きている」とは上海在住駐在員だ。

「全国文旅公益理事会」なる団体は、全国の看護師約770万人に「天使碼=天使コード」を発行した。スマホアプリに個人情報を入力すると、医療従事者であることを示すQRコードが表示され、これがあると各観光施設が入場無料に。優待が利く場所は日増しに増えていて、新型コロナウイルス“震源地”となった湖北省の看護師が、特に多く登録しているという。

 中国各地にあり、5月に営業を再開した地元遊園地「歓楽谷(ハッピーバレー)」も粋な計らいだ。北京にある歓楽谷は、医療関係者全員の入園を年内無料にした。深センの歓楽谷に至っては、湖北省への医療支援から生還した看護師77人に対し「生涯入場無料権」を贈った。

「同時期に営業を再開した上海ディズニーランドは、そうしたキャンペーンはなし。外資と民族資本の意識の違いを見せつける形になった」と同駐在員。

 飲食業界でも、「四川省火鍋協会」が湖北省の医療支援チームに参加した医療関係者に対し「戦疫英雄カード」を発行した。これを提示した本人は全額タダで火鍋が食べられ、同行者の食事代も2割引きに。

 遼寧省瀋陽市では、やはり湖北省へ支援に行った医療従事者に、近視治療の優待を実施している。山東省青島市は、最高9万元(約136万円)のマイカー購入資金を援助し、さっそくベンツを買った人もいる。

 ジャンルを問わないこうした“大盤振る舞い”は身内にも。当の湖北省の医療関係者の子供は、学校のテストで加点され、進学にも有利な条件が与えられるという。

「さすがに『テストは公正であるべきでは』という批判もあるが、ナースは国が認める英雄で、実際に最も苦労した人たちだけに、ねたむ声は驚くほど少ない」(前同)

 日本では先月29日、「医療従事者への感謝を示す」と航空自衛隊ブルーインパルスが都内で飛行を披露した。そんな予算があるなら防衛費をコロナ支援に回すなど、中国のようにもっと分かりやすいほうが喜ばれる。国防に関し日米関係を無視できないとはいえ、今の状況は日本人、ひいては人類とコロナの“戦争”なのだから。(室橋裕和)

☆むろはし・ひろかず 1974年生まれ。週刊文春記者を経てタイ・バンコクに10年居住。現地日本語情報誌でデスクを務め、2014年に東京へ拠点を移したアジア専門ライター。最新著書は「バンコクドリーム『Gダイアリー』編集部青春記」(イースト・プレス)。