新型コロナウイルスの発生を昨年末、最初に警鐘を鳴らした中国人医師が亡くなったことで、同国国民が反乱寸前の状態だ。この医師は湖北省の武漢市中心医院の眼科医・李文亮氏。7日未明、新型コロナウイルスによる肺炎で33歳の若さで亡くなった。李氏は当局から言論を封じられ、処分までされていた。同国国民は、そのせいで初期対応が遅れたと、政府に激怒し、同時に李氏を英雄視している。同ウイルスによる中国本土の死者は722人、感染者は3万4000人を超えたと8日発表され、拡大が止まらない。

 李氏が原因不明の新型肺炎について指摘したのは昨年12月30日だった。

 中国のSNS「WeChat(微信)」上で、医師仲間に「SARS(重症急性呼吸器症候群)が発生している」と警告。いわば内部告発で、これが閲覧者により画像撮りされ、インターネット上に拡散した。

 だが、中国警察当局は今年元日「デマを流した」として李氏を訓戒処分とした。その後、新型コロナウイルスが流行し、中国のネット上では「李医師は正しい行動をした」と称賛の声が上がり「英雄」となった。

 李氏は感染者を診療した際に感染し発熱。2月1日に感染が確認され入院。7日午前2時58分(日本時間同3時58分)に亡くなった。

 正しい情報を発信した者が処分される国。自分たちの命にかかわる状況なだけに、SNSでは政府に対しての激しい怒りが渦巻いている。

 別のSNS「微博(ウェイボー)」では「#我要言論自由(言論の自由がほしい)」というハッシュタグが、検閲前の金曜日の早朝までの約12時間で、180万回以上“リツイート”された。

 ほかにも「政府は正しい情報を公開せよ」との書き込みも。武漢在住の男性は「李さんが真相を口にしたときに早期に防疫措置を取っていれば、感染は狭い範囲で済んだはずだ」と当局を猛批判している。

 米CNNによると、米ジャーナリストが「政府の検閲の恐怖支配におびえながらも、大衆がここまで怒りを表明したのは、2011年の温州市鉄道衝突脱線事故以来。当局が事故原因を隠蔽するため、車両内に生存者がいたかどうかも確認せずに、即日、車両ごと地中に埋めたあの事件です。今回の李氏の死は、新型コロナウイルスのことだけでなく、政府の人命軽視や人権無視など、あらゆるフラストレーション爆発の導火線になる可能性があります」と指摘している。

 30人以上の死者と約200人の負傷者を出した高速鉄道事故の際には、政府の隠蔽と、政府の「脱線事故の報道をしてはならない」という規制に不満が集中し「微博」で政府批判が爆発。大規模デモも起きた。

 だが今回の状況は、鉄道事故とは違った意味で重大であり深刻だ。

 中国事情通は「デモをやろうにも、人が集まると、感染の恐れがある。実際のデモは起きないかもしれないが、逆に“ネット反乱”がものすごいことになりそう。不満書き込みだけでなく、ハッカーによる政府の秘密データ公開など、中国版ウィキリークスのような動きがありそうです」と話している。

 中国政府の隠蔽とは次元が違うとはいえ、日本政府の対応にも、疑問の声が上がっている。7日までに、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の乗船者で感染が確認された計61人や、政府のチャーター機で武漢から帰国した感染者を、国内の感染者数とは別枠で集計するとしたのだ。

「日本で感染が広がっているのではないか」との見方が国内外に広がるのを懸念し、日本政府は世界保健機関(WHO)に働き掛け、WHOも日本の感染者数とは別枠の「その他」として集計したという。

 加藤勝信厚労相は「実態をしっかり把握してもらうため」とし、厚労省も「ほとんどが国外や船上で感染した例で、国内の実態を正しく反映していない。市中でどんどん広がっている状況ではない」としている。

 だが、すべてを含めると日本で見つかった感染者は7日で86人。これは発生地中国に次いで多いのは事実だ。

「風評被害や差別助長、インバウンドへの影響などを考えてのことだろうが横浜のクルーズ船を香港で下船し、感染が確認された香港人男性は、途中寄港した鹿児島でバスツアーに参加して、そのバスの乗客2人が感染した。京都の物販店の中国人店員も含め、国内感染があった。86人もの感染者が出て、ケースごとに別枠にすれば、日本の安全性をアピールできるというのは安易すぎる」と海外メディアの関係者は話している。