日本の技術力を駆使して、小型バイクの世界最速記録を打ち立てようと始めた「スーパーミニマムチャレンジ(SMC)」。米ソルトレークで開催されたオートバイスピード競技会「ボンネビル・モーターサイクルスピードトライアルズ(BMST)」で、ドライバーとして参加した映画監督であり元プロライダーの近兼拓史氏(57)が、原付き二輪の50ccと125ccの2部門で世界最速記録を更新した。凱旋報告会見では、新たなチャレンジも発表された。

 レースは8月。近兼氏は日本が世界に誇る「ホンダ スーパーカブ」の改造車で出走。塩湖の上で1マイルあたりの平均速度を争い、NSX―51(50cc+スーパーチャージャー)は時速101・771キロ(最高速度128・63キロ)、NAX―02(125cc+ターボ)は時速101・375キロ(同169・85キロ)をマーク。先日、ようやく認定書が届き、13日に都内で会見を開き「世界記録かそれ以外。トップを取らないと意味がない、何も残らない競技」で1位を獲得した喜びを報告した。

 つくり上げたのは中小企業の技術を集めた“究極バイク”だ。空気抵抗を極限まで抑えるため、車高は最も高いところで地上71センチ。ドライバーの頭の位置は地上30センチもない。タイヤの位置よりも頭が低いという乗車ポジションで理想を追った。

「『人間魚雷』と呼ばれた。ほぼ前が見えない究極のマシン」とは言い過ぎではない。エンジン開発、部品も一つひとつを製作。大量生産では考えられないようなコストと時間のかかるものづくりに挑んだ。

 当初の予算は6000万円。しかし、米中経済戦争の影響や、今年のラグビーW杯、来年の東京五輪に注力する企業が多く、スポンサー獲得は難航。結局、目標予算の半分程度で戦った。

 今回の結果を受けて「話を聞きたい」という企業も集まっているという。来年以降は普通のバイク乗車姿勢で2クラス制覇を狙う。

 近兼氏はカブを「働き者」の意味を込めて「ロバ」と呼ぶ。今回はロバがサラブレッドに打ち勝った快挙である。

「ものづくりの面白さが次世代に伝わればうれしい」と近兼氏は訴えている。