全国各地に甚大な被害を与えた台風19号は、農家が丹精込めて作った野菜や果物にも、多大なダメージを与えた。収穫直前に、枝から落ちてしまって売り物にならなくなったリンゴや梨などの果物。これを使ってビールを作る取り組みがいま、注目を浴びている。のんべえも「復興の手助けになる!」と、胸を張って“地域貢献ビール”を飲めるわけだ。

 台風19号の被害は各地に大きな被害を与え、復興のメドさえ立たない被災地も多い。

 千曲川決壊で大規模浸水した長野県長野市の穂保地区に広がっていたリンゴ畑も、収穫前のリンゴが風雨にさらされて枝から落ち、泥水にまみれた。ほとんどの農家は台風に備えていたが、自然の脅威を完全に防ぐことは無理な話だった。

 それでも、汗水たらして育てた“我が子”が、売り物にならなくなった生産者の嘆きはどれだけのものか。そんな生産者の救世主が現れた。

 傷ついて店頭に並べられなくなったリンゴや梨など「B品」の果物をビールとして生まれ変わらせたのは、ビール醸造所「サンクトガーレン」(神奈川県厚木市)だ。横浜赤レンガ倉庫で開催中の「横浜オクトーバーフェスト」(20日まで)に出品された「和梨のヴァイツェン」は、ヴァイツェンをベースに梨を加えたフルーティーなビール。これに使われているのが、9月の台風15号で枝から落ちた神奈川県小田原市の農家から買い取った梨だ。

 サンクトガーレンの岩本伸久社長は「小田原では約2トンの梨が売り物にならなくなったそうです。JAから『なんとか使ってくれないか』とお話をいただき、約350キロを買いました」と話す。

 台風被害から生まれたビールと知ったファンが興味を持って買い求めに来るそうだ。生産者にとっては1円にもならない物が売れる。醸造所にとっては原料を安く仕入れられる。

 消費者にとっても、普段から飲み過ぎを意識している人でも「飲むことが地域貢献になる」と思えば、アルコール摂取の罪悪感も薄れるというもの。みんなが笑顔になる最高の取り組みだ。

 台風19号の被害を受けた果物農家からの“SOS”はまだ届いていないそうだが、「うちで対応できるものであれば、ぜひやらせてほしい」と岩本社長は胸を叩く。

 台風は年々、その威力を増している。来年以降も日本列島は同様か、それ以上の被害を受け続けるだろう。ほかでも同じ取り組みをしている醸造所はあるのだろうか。

 岩本社長は「いや。うち以外で聞いたことはありません」と言うが「できないことはありません。やればできると思います」とも話す。

 サンクトガーレンがB品を使うのは初めてのことではない。

「うちは2007年から果物を使っていて、一番目はリンゴを使いました。長野県の伊那市の市長さんが『太陽が当たらなかったり、枝にぶつかって傷ついたりして、台風に限らず、B品は全体の3分の1で出てしまう』と話すのを聞いて、それならと始めました。うちの『湘南ゴールド』(春夏限定のビール)も売りものにならない神奈川県産オレンジを使っています」

 サンクトガーレンは長期的にB品を積極的に取り入れ、JAや生産者とのパイプがある。他の醸造所でもつながりや情報さえあれば、何か災害が起きた際に農家を救う手助けができる。泥水にまみれた果物でも「中身さえ平気なら、問題ない」という。