カンボジアタクシー運転手殺害事件 広がる現地在住日本人による遺族支援

2019年09月12日 16時00分

【アツいアジアから旬ネタ直送 亜細亜スポーツ】カンボジアで起きた日本人2人組によるタクシー運転手殺害事件の裁判が、さる9日に始まった。

 計画殺人の罪で起訴されたのは、石田礼門(23)、中茎竜二(24)両被告。現地在住の商社マンによると「事件発生は3月だが、その後の捜査や調整が長引き、公判日程がやっと決まったのは1週間ほど前」という。

 カンボジア北西部、世界遺産アンコールワットで知られるシエムレアプの州裁判所で開かれた第1回審問で、両被告は「殺すつもりはなかった」と殺意を否認。弁護士は罪状を過失致死に変更するよう裁判所に要請した。

 殺されたフム・チャンさん(享年40)の妻ソック・チャンロムさん(38)は、法に基づき、2人を厳罰に処すよう訴えた。また「夫を失い、これからどう暮らせばいいのか」と、今後の生活費として10万米ドル(約1070万円)の賠償金を求めている。

 捜査を進めてきた地元警察の副署長によると、2人はタイから国境を越え、3月16日にカンボジア入国。翌日、アンコールワット観光のためといって30米ドル(約3210円)でチャーターしたタクシーに乗車中、中茎被告がフムさんの喉をナイフで切り裂き殺害し、遺体を車から投げ捨て、逃走した。

 奪ったタクシーは石田被告が運転するも、気が動転していたのか操作を誤り、国道そばの柱にぶつかり大破。2人は、フムさんの遺体を見付け、追ってきた地元民たちにタクシーから引きずり出され、殴る蹴るのリンチを受けた末、警察に引き渡された。

 当初、犯行グループは3人とした警察発表は間違いだった。「事件や裁判の様子は現地でも報道され、関心が高い。こっちでは『日本人は勤勉で真面目』と思われてるから、そんな日本人がどうして凶行に走ったのか、動機の解明が焦点」(商社マン)

 2人は日本で400万円ほどの借金があり、逮捕当初は金目的だったと供述している。だがカンボジアの物価や生活水準を考えたら、タクシー運転手がそれほどの大金を持っていないことはすぐ分かるはずで、実際、奪われた金額に関する現地報道はない。

 事件後、夫を失ったソックさんが4人の子供を抱え、フムさんは銀行から借金してタクシーに使う車を買ったばかりだったと地元メディアで報じられると、現地日本人社会の有志が募金を始めた。また在カンボジア日本大使は哀悼の意をフェイスブックに投稿し、大使館職員も義援金を寄付。首都プノンペン市内にあるイオンモールの2店舗でも募金箱を設置するなど、現地在住日本人による遺族支援の動きが広がっている。

「カンボジアは、ポル・ポト時代の反省から『いかなる場合でも、国民同士で殺し合いはしない』という主義のもと、アジアで初めて死刑を廃止し、最高刑は終身刑」(前同)。そんな異国の刑務所で、まだ若い両被告は残りの人生を過ごすことになる可能性が高い。(室橋裕和)

☆むろはし・ひろかず 1974年生まれ。週刊文春記者を経てタイ・バンコクに10年居住。現地日本語情報誌でデスクを務め、2014年に東京へ拠点を移したアジア専門ライター。最新著書は「日本の異国」(晶文社)