【アツいアジアから旬ネタ直送 亜細亜スポーツ】逃亡犯条例改正案問題から始まった香港の反政府デモが激化する中、香港政府トップの林鄭月娥行政長官は4日、改正案の正式撤回を表明した。それでも、香港大規模民主化デモ「雨傘運動」のリーダー、黄之鋒氏は同日、香港に必要なのは普通選挙だとして「改正案を撤回しても抗議活動を止めることはできない」と表明した。

 対する治安当局は、先月下旬ごろから、さらなる情報統制にも乗り出した。中国との境界・深センで、通行者にスマホの提示を要求しデータチェックしているのだ。

「一国二制度のもと、中国と香港は統治機関が異なるため、同じ国でも行き来するにはイミグレーション(出入国管理)がある。税関も通るが、これまではおざなりなX線検査程度だったのに今はかなり厳重になっている」とは北京在住記者。

 当局が危険視しているのは荷物よりもデータで、香港人は全員が対象。とりわけデモの中心になっている若者たちは重点的に調べられ、SNSの履歴まで徹底チェックされる。中国側に「反政府」の動きが広まるのを少しでも抑えようという意図からだ。

 香港―深セン間は日本人もたくさん行き交う。香港に本社機能、中国国内に工場を持つような日系企業が無数にあるからだ。駐在員や現地採用者のほか、日本からの出張者も多いし、こんな情勢下だが、観光客もまだいる。そんな外国人のスマホもデータチェックの対象で「ここだけの話、一部ビジネスマンの間ではスマホに入れたエロ画像や動画のリンクなどを、あらかじめ削除する動きが広がっている」(前出記者)という。

「当局が摘発したいのはデモを主導・支援している人々で、問題視しているのはデモを撮ったデータや、SNSでデモや民主主義に賛成するような書き込みをしているかどうか。ただ、もしスマホ内のエロいデータを見られたらどうなるか。中国はポルノに関する厳しい法律があるから、ポルノ所持なんかで逮捕され、それを口実にデモとの関連はないか、さらに厳しく取り調べを受ける可能性もある。『デモ下の香港でエロ日本人逮捕』なんて報道されたら人生終わり、とみんな戦々恐々としている」(前同)

 対策として常識化しているのがスマホの2台持ちだ。深センを行き来するときは、最低限の機能だけインストールした2台目を持っていくというわけ。また厳重な検査は深センとの間だけで、マカオとの境界では行われていない。面倒ごとを避けるため、中国へはマカオ経由でという日本人もいるようだ。

「中国は10月1日に建国70周年を迎える。国家を挙げての一大イベントのため、国内では風俗関連も含め、ありとあらゆる犯罪の徹底的な取り締まりが行われている。中国に今月行く日本人は、ささいな言動にも注意したほうがいい」と、前出の記者は警告する。

 そして香港デモも、当局は10月までに何としても潰したいという意向だから、今月中に大きな動きがあるかもしれない。(室橋裕和)

☆むろはし・ひろかず 1974年生まれ。週刊文春記者を経てタイ・バンコクに10年居住。現地日本語情報誌でデスクを務め、2014年に東京へ拠点を移したアジア専門ライター。最新著書は「日本の異国」(晶文社)