【アツいアジアから旬ネタ直送 亜細亜スポーツ】タイ・バンコクのカオサン通りで11日、“笑気ガス風船”の屋台経営者ら9人が逮捕された。

 警察とともに摘発に動いたタイ食品・医薬品局の担当者は「本来は歯科医での麻酔など医療目的に使われるもの。所持や販売には許可が必要」と逮捕理由を説明。最高で懲役5年か罰金1万バーツ(約3万5000円)、またはその両方が科されることになるという。

 笑気ガスとは亜酸化窒素のことで、別名「シバガス」。吸うと独特の陶酔感や多幸感がある。筋肉が弛緩し、表情も緩み笑っているように見えることからこの名が付いた。ただ“キマった”状態はあまり長続きしないため、立て続けに大量摂取する人もいて、嘔吐や錯乱、手足のしびれや意識障害を引き起こすことも。

 近年は東南アジア各地や中国で蔓延していて、「どの国でも標的はとりわけ外国人旅行者」とはバンコクの日系旅行会社社員だ。中でもベトナムの最大都市ホーチミンでは、不法販売が横行しているという。

「カオサンと並ぶバックパッカーの聖地・デタム地区には安宿やバーが密集していて、笑気ガスで膨らませた風船が路上やバー店内で売られている。堂々とメニューに書いてる店もあって『ハッピーバルーン』『ファンキーバルーン』などと呼ばれている」

 首都ハノイの安宿街でも外国人や若者の間で広まっていて、今年3月には常習者のオーストラリア人旅行者が死亡。韓流グループ「BIGBANG」元メンバーのV.Iも、引退直前の2月、ハノイのクラブでハッピーバルーン中とされる写真が流出し、本人や当時の所属事務所は吸引を否定した。また昨年9月には、ハノイで行われた音楽フェスで、男女7人が過剰吸引とみられる急性症状で死亡した。

「ベトナムでも、娯楽目的での笑気ガス使用は違法。ただ取り締まりが徹底されていない。しかも値段が1回分で2万~10万ドン(約90~460円)程度と安いこともあって、若者の間で大流行。それが外国人にも飛び火していったようだ」とはハノイ在住記者。

 日本でも若者を中心にひそかに流行し、ネット販売されたりもしたが、3年前、医療目的を除く販売や所持、使用が全面的に禁止された。その快楽を忘れられないフリークが、ならば東南アジアでと渡航するケースもあるようだ。(室橋裕和)

☆むろはし・ひろかず 1974年生まれ。週刊文春記者を経てタイ・バンコクに10年居住。現地日本語情報誌でデスクを務め、2014年に東京へ拠点を移したアジア専門ライター。最新著書は「日本の異国」(晶文社)。