足かけ21年・日の丸カンボジア投資 中国「上塗り」でピンチ

2019年06月06日 16時00分

フン・セン首相(左)の“安倍詣で”は…(ロイター)

【アツいアジアから旬ネタ直送 亜細亜スポーツ】先月31日に開催された日本・カンボジア首脳会談。ほとんど報道がなかった日本と違い、カンボジアでは大きく報じられた。

「ワーキングランチを通じ、2国間の関係強化と地域発展のため話し合うというものだったが、実質的にはカンボジア側の援助の無心」と指摘するのは、東南アジア情勢に詳しい記者。来日したフン・セン首相(68)は、天皇陛下の即位と令和の幕開けに祝意を示し、日本政府は人材育成などに5億円以上の無償資金提供すると約束した。

 特に注目されたのは、カンボジア南部シアヌークビル港の整備に関する案件。安倍晋三首相(64)は「この港は日本にとっても非常に重要。日本は港湾開発と管理のため支援したい」と申し出た。

 カンボジアで唯一、大型船が着岸できるこの大水深港は物流の拠点だ。カンボジア内戦後の1999年から、日本は主にJICA(国際協力機構)を通じ有償無償の援助や技術協力を行い、開発を進めてきた。日本が官民あげて資金を注ぎ込んできた「インドシナ南部経済回廊」の中でも重要な港で、ベトナム・ホーチミンと、タイ・バンコクを結ぶ中間点という位置付け。一昨年には新ターミナル建設のため230億円余りの円借款を結んでいる。

 外資企業を優遇することで、誘致している経済特区も隣接していて、ここも日本の円借款により整備されたものだ。その成果もあってかカンボジアはこの10年、6~7%の高い経済成長を達成し、日本の支援が形になりつつある。そんな中、ここ数年、圧倒的な存在感を見せているのが中国だ。

「かつてカンボジアへの最大の援助国は日本だったが、2010年に中国が逆転。16年には年間2億5000万ドル(約270億円)と日本の倍以上に。しかも中国の援助は、日本の支援場所を塗り潰すようなものが多い」(前出記者)

 首都プノンペンでは、日本が架けた橋の隣に中国の橋が並ぶ。またシアヌークビルとプノンペンを結ぶカンボジア初の高速道路建設に、中国は20億ドル(約2160億円)投資すると、さる3月発表した。シアヌークビルには中国版経済特区もあり活況。民間の投資も激しく、カンボジアの街は“中国化”が急速に進む。

 中国の支援額はもはや日本と桁違い。フン・セン首相の“日本詣で”もポーズだったのか、首脳会談翌日にはカンボジアのホー・ナムホン副首相(83)が新華社通信に対し「中国のシアヌークビル開発はカンボジアにとってのモデルプラン」「中国がつくってくれた経済特区は両国の子供だ」と、日本の支援も忘れ最大級の賛辞を贈った。

 フン・セン首相は日本の財界関係者とも数多く会談し、多額の援助を引き出したが、外交では完全に中国追従だ。来日中、米中貿易戦争に対し意見を求められるや、「結局損をするのはアメリカ国民」と米トランプ大統領をけん制。日本が20年かけ開発してきたシアヌークビルも、ゆくゆくは中国のものになってしまうかも。(室橋裕和)

☆むろはし・ひろかず 1974年生まれ。週刊文春記者を経てタイ・バンコクに10年居住。現地日本語情報誌でデスクを務め、2014年に東京へ拠点を移したアジア専門ライター。最新著書は「日本の異国」(晶文社)。