【アツいアジアから旬ネタ直送 亜細亜スポーツ】タイは今、狂犬病禍だ。地元メディア「ネーション」によると1日、東部スリン県で今年初の死者が出た。治療した医師によれば「死者は32歳の男性。昨年11月に野良犬にかまれたが病院へ行かず、発症したようだ」という。人気リゾート地プーケットでは1月、犬などの動物が狂犬病に感染していることが確認され、保健当局が監視エリアに指定し、現在も警戒を強めている。

 タイ保健省によると、狂犬病ウイルスを持つ動物は、報告があった数だけでも2015年が330、16年が614、17年は843と、年々増加。15年に5人だった死者は、昨年は16人に増えた。

「タイは殺生を大罪とみなす仏教の考えが根強く、自由を好む国民性もあり、野良犬も放置され、人間と共存している。行政は野良犬に狂犬病ワクチンを接種するが、その後はまた路上に戻している」とは首都バンコク在住記者。

 ワクチンの普及で狂犬病の感染数は減少していたが、近年ペットとして犬を飼う人が急増し、ワクチン接種が行き届いてないとの指摘もある。ペットに予防接種しないと罰金が科されるが、その額わずか200バーツ(約690円)で効果は低い。ぺットが増え、殺処分されることなく繁殖する野良犬により、狂犬病は広まっているようだ。

「野良犬は高級ホテルの敷地に入り込んでくることもあれば、エサをもらえる屋台街にもよくいる。エアコンで涼みたいのか、コンビニ出入り口に陣取る犬も見る。寺院では捨て犬の面倒を見ていることもあり、たくさんいる。人にも慣れていてかわいいが、下手に手を出すとかまれることもある」(前出記者)

 狂犬病は発症すると、筋肉のけいれん、液体を極度に恐れる恐水症などの症状を起こし、やがて昏睡、死に至る。致死率ほぼ100%。タイでは感染動物の約90%が犬だが、6%が牛、3%が猫なので、さまざまな動物に注意する必要がある。

「野犬がウロウロするタイで狂犬病は身近なリスクだが、日本人旅行者はあまりに無防備。世界遺産のアユタヤ遺跡やビーチリゾートでも、日本人が犬にかまれる被害が続出している。事後にワクチンを打てば発症しないが、帰国後も週1回、計5回接種しなきゃいけない。日本では接種できる医療機関が限られており、非常に手間がかかる」(医療関係者)

 人気ビーチのパタヤも、一部が狂犬病リスクの高い地域と指定され、3月からペットや野良犬に無料でワクチン注射するイベントが行われている。タイ政府は「来年までに狂犬病撲滅」を掲げ、同様のキャンペーンを来月末まで続けるとしている。犬が活発になるのは夜間。歓楽街の路上では気をつけたほうがいい。(室橋裕和)

☆むろはし・ひろかず 1974年生まれ。週刊文春記者を経てタイ・バンコクに10年居住。現地日本語情報誌でデスクを務め、2014年に東京へ拠点を移したアジア専門ライター。最新著書は「おとなの青春旅行」(講談社現代新書)。