【アツいアジアから旬ネタ直送 亜細亜スポーツ】フィリピンでドゥテルテ大統領が2月の演説で「国名を変更したい。フィリピンではなくマハルリカ共和国とすべきだ」と発言して以来、国名変更議論に沸いている。

「今の国名はスペイン人探検家が1542年に名付けた。この島々を“征服”した記念に、スペイン皇太子フェリペにちなみ命名。だからたびたび、植民地主義の名残といわれてきた。1978年にもマハルリカへの変更を求め法案が提出されたことがあり、かのマルコス元大統領も国名変更を望んでいた一人」とは首都マニラ在住記者。

 マハルリカとはフィリピン南部に住むマレー系の人々の言葉で「自由」「平穏」を意味する。また、東南アジアへの影響が強いサンスクリット語では「高貴に生まれる」という意味。国内の人気バスケットボールリーグの名称は「マハルリカ・フィリピナス・バスケット・リーグ」で、フィリピン人にとっては祖国を表すなじみ深い言葉だ。

 現地で聞くと「近年、経済成長が続き、国力が高まっている。それを背景に民族の自尊心へ訴え、愛国心をかきたてる国名変更は支持を広めている」。一方で「ドゥテルテ大統領の独裁体制を強めるのでは」「右傾化は危険だ」などの声も大きい。マルコス体制化で弾圧されてきた人々も、変更反対を表明している。

 東京・足立区に密集するフィリピンパブでもこの話題で持ちきりだ。

「絶対反対。長い間ずっと使われてる、誇りある国名。愛着があるし、私は自分のことを『フィリピーナ』だと思っているから」とはあるホステス。一方「ダディ(ドゥテルテ氏の愛称)がそうしたいなら反対はしない。寂しいけど、国がなくなるわけじゃない」とは、ドゥテルテ氏が市長を7期20年以上務めたダバオ市出身のホステスだ。

 反対しない理由を聞くと「ダディはダバオから麻薬や犯罪を減らしてくれた。女が夜も歩けるようになったのは彼のおかげだから」。夜の世界で働くフィリピン人女性にはダバオがあるミンダナオ島出身が多い。常連客によると「フィリピンパブではとりあえずドゥテルテの話をすれば盛り上がる」という。

 フィリピンはスペイン来訪以来、アジア唯一のキリスト教国だ。日本で働くフィリピンパブ嬢たちも熱心に教会へ通う。その一人は「国名には植民地の歴史だけでなく、私たちにキリスト教をもたらしてくれたという意味もあります。再来年はフィリピンにキリスト教が伝来して500年の節目。そんな大事な年を前に、国名を変更するのは反対」と語る。

 往年のアニメ「魔法使いサリー」の呪文(マハリクマハリタ)のような新国名アイデアだが、現地では国名改正のために国民投票を呼びかける動きもある。(室橋裕和)

☆むろはし・ひろかず 1974年生まれ。週刊文春記者を経てタイ・バンコクに10年居住。現地日本語情報誌でデスクを務め、2014年に東京へ拠点を移したアジア専門ライター。最新著書は「おとなの青春旅行」(講談社現代新書)。