タイで8年ぶり総選挙 軍政派の首相続投で歓楽街はどうなる?

2019年03月28日 17時00分

投票所の前。候補者は分かりやすくナンバリング

【アツいアジアから旬ネタ直送 亜細亜スポーツ】タイで24日、8年ぶりの総選挙が行われた。軍が5年前クーデターを起こして以降、軍事政権が続き、民主的選挙を求める声が強かったが、たびたび延期されてきた。

「2006年の軍のクーデターで、タクシン元首相は国を追われたが、今でも地方の農村部を中心に圧倒的な得票力を持つ。そのタクシン派の『タイ貢献党』と、親軍政の『国民国家の力党』の事実上の一騎打ちになった」(バンコク在住記者)

 国内は選挙一色。現国王の姉がタクシン派から立候補を表明(後に撤回)、大麻解禁やタクシー配車サービスの無料化を訴える候補者、美貌が売りの泡沫候補などが乱立した。投票前には賄賂も乱れ飛び、現地在住日本人によると「近所の家の玄関先に1000バーツ(約3500円)札が投げ込まれたらしい」。

 歓楽街の風俗嬢は激減した。「住民登録している故郷へ帰り、みんな投票するんだ。政治参加意識が高く、貧しい農村出身の子が多いからタクシン派支持が目立つ」と同記者。人気ゴーゴーバーエリアのナナプラザなども全面休業となり、風俗街を含め、選挙前日と当日は酒が販売禁止に。「酔っ払って投票へ行かなくなるため」との理由からだが、コンビニでも酒コーナーが封鎖され、事情を知らない外国人観光客はトバッチリだった。

 当日は朝から各テレビ局が選挙特番を放送。国民的歌手が投票を訴えた。投票所は学校などのほか、仏教国らしく、ワット・ポーなどの観光スポットの寺院にも設置され、周辺には屋台が出た。即日開票されたが、投票数が有権者より多い自治体が出たり、選挙権のない子供や死亡した人が投票したことになっていたり、不正が続出。軍政関係者が投票箱を持ち出し、何やら細工する様子もSNSに投稿された。

 開票結果は確定していないが、軍政派が僅差でリード。「軍はタクシン派の勢力をそぐべく、資金源を断ち、関係政党を解党させ、有力政治家の立候補を阻止するなど、徹底した“タクシン潰し”をやってきた。それが功を奏したのでは」と同記者は指摘する。

 一方、タクシン派も得票を伸ばし、双方とも全500議席の過半数に届かないため、連立工作が活発化する。首相は現軍政トップのプラユット氏が続投する見込み。タクシン派は投票時の軍の不正などを訴え、双方の対立は今後も続きそうだ。

 気になるのは歓楽街の行方。「プラユット首相は真面目で潔癖な人柄といわれ、これまで風俗産業を目の敵にしてきた。風俗関連はタクシン派とつながりの強い警察の縄張りということもあり、民政に移管するとはいえ、軍の影響力は強いままで、今後も取り締まりは厳しく、遊びにくくなる可能性はある」と現地風俗に詳しいライターの表情は冴えない。(室橋裕和)

☆むろはし・ひろかず 1974年生まれ。週刊文春記者を経てタイ・バンコクに10年居住。現地日本語情報誌でデスクを務め、2014年に東京へ拠点を移したアジア専門ライター。最新著書は「おとなの青春旅行」(講談社現代新書)。