「頭部移植」手術計画中止のワケ 不老不死の夢「ヘブン計画」どうなる

2019年01月19日 17時00分

 2015年6月、イタリアの医師セルジオ・カナベーロ博士が提唱した首を切断して、別の体に付け替える「HEAVEN(ヘブン)」計画は世界に衝撃を与えた。本紙で何度も報じたSF映画さながらの「頭部切断移植手術計画」だが、このたび中止の運びとなった。不老不死にもつながる壮大な計画が頓挫したワケは?

 ヘブン計画はヘッド(頭部)、アナストモシス(吻合)、ベンチャー(事業)を合わせた言葉だ。

 幼いころから車いす生活だが、脳は正常に機能しているウェルドニッヒ・ホフマン病患者で、コンピューター学者のロシア人、ワレリー・スピリドノフ氏(33)が被験者として名乗り出ていたが、今回、同氏が中止を申し出た。

 計画はカナベーロ博士が発案し、実際の執刀は中国のハルビン医科大学の外科医、レン・シャオピン医師が行うはずだった。スピリドノフ氏の頭部を脳死状態のドナーの体に接合するというものだ。接合面に“魔法の成分”と呼ぶ化学物質のポリエチレングリコール(PEG)を振り掛けて神経を接着し、首を縫い合わせるのだという。世界の医療界が「やめろ」と声を上げ、一般人ですら「頭部を切り離した瞬間に殺人になるだろ」と議論するなど、大きな話題になった。

 それでも、スピリドノフ氏は「私の手術が人類の難病を解決することになればうれしい。もし、手術が成功したら、休暇を味わいたい。今までのこの体では生きるだけで大忙しで、休暇というものを味わえないから」と前向きだった。

 2016年にマウスと犬の実験はある程度の成功を収めたと発表。17年末に行われる予定だったが、同年行われたのは死体同士の首のすげ替えまで。18年中に行われるはずが、同年12月に中止になった。

 スピリドノフ氏は先日、複数のメディアに「手術はキャンセルしました。結婚したからです。グラマラスな妻で、男の子を生んだんです」と明かした。守るものができて、恐怖心が出てきたのだろうか。

「以前は、僕には失うものがない、普通に歩きたいと思っていました。でも、死体同士の頭部移植手術の実験が行われた時、技術に問題があると疑いを抱き、大きなリスクがあることを実感しました。カナベーロ博士もどこまで実験が進んでいるのか、詳細を教えてくれないんです。それで、そんな手術は何か間違っているんじゃないかと思うようになったんです。そもそも頭部移植手術は、主流の医学では科学的に不可能とされています」

 同氏は17年にロシア女性でコンピューターを研究しているアナスタシア・パンフィローヴァさんと結婚。同じ研究分野で何度か顔を合わせるうちに結ばれたそうだ。18年に米国に移住し、11月に赤ちゃんが誕生した。

 アナスタシアさんは妊娠中に遺伝子検査を行い、子供がウェルドニッヒ・ホフマン病でないことを確認していた。スピリドノフ氏は「奇跡の子」と呼んでいる。

 スピリドノフ氏は現在、フロリダ大学で感情のコンピューター分析を研究している。また、声で動く車イスの開発も進めているという。

「手術をキャンセルして、肩の荷が下りました。カナベーロ博士には今後も研究を頑張ってほしい。そして、誰かが手術成功したところを見たいです」

 果たして、ヘブン計画は続くのだろうか。