日産自動車が役員報酬の決定を「会長に一任する」としてきた社内規定を廃止し「取締役会で決める」と変更したことが19日、分かった。日産の当時会長だったカルロス・ゴーン被告(64)が、役員報酬にまつわる金融商品取引法違反容疑で逮捕されてから19日で1か月。米国の経済史や会計学に詳しい警鐘作家の濱野成秋氏が「ゴーン5つの大罪」と糾弾すべく、緊急寄稿した。

 その1「陳腐な着せ替えトリックはだましの戦法」

 経営手腕は認めるが…という一般的評価。これは買いかぶりだ。ゴーンは日産をみじんも愛していなかった。帳簿上黒字を出せば重役たちはだまされよる。こう思ったか、彼の陳腐過ぎる会計学は単純に赤字を消すこと。主力の村山工場を閉鎖し、関連子会社の株を乱売して換金。縮小経営に切り替え帳簿上の負債を帳消しにして評価益を計上する手法で損益計算書だけはV字型黒字転換に見せかけた。

 人件費と敷地転売で身軽になる。このやり方は19世紀末の、労働法も何もないころのニューヨークの資本家がよくやった手口で、何の新鮮味もない。この種の“着せ替えトリック”は、現在でも無責任なコンサルタントや税理士がやる手口にすぎない。

 その2「地獄の『内攻型』締め付け経営」

 辣腕経営者なら彼自身の新機軸で車を売りさばいてキャッシュフローを促す。この純益志向をストラテジータイプと呼ぶ。一方、内部をいじり回す戦略をオペレーションタイプといい、そればかりに腐心するトップは会社の業績が悪いが意に介せず、やたら従業員を締め付ける。つまり前者は外攻型で会社を救うが、ゴーンのような内攻型は従業員を締め付け続け、都合の悪い従業員は配転させる。

 日産は最低の経営者をよく確かめもせず抱え込んだ。この無責任体質が今回の大失態につながったのである。軍隊でもこの種の連隊長が来るとやたら陣地放棄をやり、死者続出でもケロリとして弾薬も兵站も底をつき、やがてドカ貧に落ちる。

 その3「優秀メカを多数抹殺した企業殺しの罪」

 ゴーンがやった村山工場閉鎖命令は、最高に高い資質を誇るメカ部門を無益に死なしめたに等しい。当然、企業戦略家としては大失態であり、現在の経営学ではあり得ない人事だが、ゴーンは部下を平気で見捨て、その犠牲者に謝罪一つせず、いまだ「俺の戦略で企業は救われた」と豪語する。

 熟練工を多数失った会社にとってゴーンの到来は「死に体」への滅亡作戦を強いられたに等しい。ゴーン経営とは従業員の抹殺であり企業の自滅策である。

 連鎖倒産した系列会社の家族まで入れると10万人は超える失業者を路頭に迷わせてまで断行した村山工場潰しの責任は重大だ。

 その4「日本企業の家族主義をぶっ潰したテロリスト」

 ここは日本である。松下もホンダもトヨタも、社長から工場で働く者まで、家族同然の温かい空気の中で仕事をする。サントリーの佐治さんを見なさい、ブリヂストンの石橋さんを見なさい。みな社員やその孫子までも幸せを思って、仲良く人生を幸せにやってる。これが日本型経営の大原則。

 日産の場合、カーマニア3人が興した前身企業のダットサンは愛され続けて、同社の温情主義も日本人に愛された。DATSUNと名を変え、日産と変更した後も、その精神は変わらない。

 この日本人の会社をルノー(注:日産の大株主で企業連合を組むフランスの自動車大手)に全部くれてやる約束を取り付けたとか、そうでないとか。

 その5「マクロン政権の魔弾の射手か」

 日仏国際問題となって安倍首相は手控えるが、その弱さでどうするか。下手をすると、何兆円とからめとられる瀬戸際ではないか。びびる必要なし。国益本位論を堂々と出して、日産を救え。マクロン大統領の意向なんて配慮無用。早晩退陣するのだから。

 ルノーと日産が統合せねば、日産が潰れる? それとゴーン制裁とは別だ。国際問題を罪隠しに使うな。ルノーの体質は日産よりはるかに脆弱。日産は昨今のEV部門で十分食っていける。(警鐘作家)