F1グランプリ開催決定でベトナムの犬食文化が絶滅危機

2018年12月13日 17時00分

【アツいアジアから旬ネタ直送 亜細亜スポーツ】ベトナムの首都ハノイの名物料理といえば犬。「ティッチョー」と呼ばれ、蒸したり炒めたり、鍋や丸焼きで食べる。他にもソーセージにしたり、内臓をスープにしたり、睾丸を酒に漬けたりと調理方法は多彩だ。

 北部に位置するハノイの冬場は冷え込むため、体を温める効果のある犬肉は好まれる。スタミナ食でもあり「食べると幸運に恵まれる」と言われる縁起物。市内のあちこちに「犬肉通り」がある。中国の影響で犬食文化が広まったと考えられ、アジア犬保護同盟(ACPA)の統計によると年間500万頭が消費されている。これは1位の中国(2000万頭)に続き第2位だ。

 そんなベトナムで、犬食をやめようという動きが広がっている。きっかけは先月7日に決定したF1グランプリの開催。再来年から毎年行われ、サーキットの建設も進められる予定だ。世界中から集客が期待されるだけに、当局は「犬食が野蛮な文化と思われるのでは」と懸念。ハノイ市は「ベトナムのイメージが悪化する」「なるべく犬を食べないように」と異例の発表をした。

 犬肉消費量世界第3位(300万頭)の韓国は、2月の平昌五輪の際、欧米諸国から犬食文化を批判された。「韓国政府は五輪期間中は犬を出さないようレストランに自粛するなど騒動になったが、同じことがベトナムでも起きかねない」と、動物保護団体はF1が開催される2020年までに全ての犬食、食用犬の輸出入、食肉加工の禁止を訴えている。

 東南アジア全般のニュースを扱うウェブメディア「パタヤ・ワン」によれば、ベトナムでは犬の需要が養殖やラオスなどからの輸入では間に合わず、飼い犬を誘拐するケースも多いという。また運搬時は狭いケージに大量に押し込み、水や餌も与えず、死ぬ犬も。また体重が重い犬が高く売れるため、大量の米やセメントを無理やり食べさせることもあるとか。

 感染症のリスクも。ベトナム北部で09年に流行したコレラは、犬肉から感染が広まったと考えられている。なんと狂犬病ウイルスをもった食用犬もいて、一昨年は49人が狂犬病で死亡した。ベトナム全土には800万頭の犬がいるとされるが、予防接種を受けているのは300万頭足らず。ベトナム政府は20年までの狂犬病撲滅を掲げているが、ACPAは「犬食をやめない限り不可能」と言っている。

 実際に現地で犬を食べてみると、独特の獣臭さがあった。臭い消しのため大量のハーブや野菜が添えられるが、それでも鼻の奥に残る強烈な臭いがある。(室橋裕和)

☆むろはし・ひろかず 1974年生まれ。週刊文春記者を経てタイ・バンコクに10年居住。現地日本語情報誌でデスクを務め、2014年に東京へ拠点を移したアジア専門ライター。最新著書は「おとなの青春旅行」(講談社現代新書)