【東名高速あおり事故】石橋被告「求刑23年」の現実性…専門家は「2年もあり得る」

2018年12月12日 07時10分

 昨年6月の“東名高速あおり事故”をめぐる石橋和歩被告(26)の裁判員裁判の論告求刑公判が10日、横浜地裁(深沢茂之裁判長)で開かれ、検察側は懲役23年を求刑した。14日の判決を前に「23年でも少ない!」「極刑を!」という声も高まる中、専門家は「懲役2年もあり得る」と驚きの指摘をする。過去の同様の判例ではもっと少ない懲役1年4月の実刑が確定しているのだ。

 神奈川県大井町の東名高速道路で昨年6月、あおり運転を受け無理やり追い越し車線に停車させられた夫婦が後続のトラックに追突され死亡した事故で、自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷)などの罪に問われた石橋被告に、検察側は懲役23年を求刑した。

 公判では、これまで何度もあおり運転を繰り返した石橋被告による「この事故がなければ、彼女と結婚する予定でした。支えていきたいので、事故のことをお許しください」などと謝罪にもならない謝罪文の存在も明らかとなった。理不尽に両親を奪われた2人の娘には同情の声も集まり、“石橋憎し”“あおり運転絶対許すな”のムードが高まっている。

 量刑について、交通ジャーナリストの今井亮一氏は「全国民が注目している裁判だが、一言で言えば、ずいぶんと重い。判決は2年6月もあり得る」と語る。

 国民感情とはほど遠い冷めた予測だ。しかし、今回の裁判の量刑を見極める上で参考になる事故がある。昨年10月、本紙が類似例として取り上げた2011年8月の東北道下り線(栃木県)での事故だ。同道を自動車で走行していた男(44=当時)が車線変更した高速バスに腹を立てた。進路をふさぐように前方に車を止め、バスを走行車線に停止させた。そこにトラックが後方から衝突。トラック運転手は死亡、バス乗客も十数人が重軽傷を負った。

 走行車線と追い越し車線の違い。死亡者が追突した側と追突された側の違い。2つの違いがあるものの、あおり運転が引き起こした死傷事故という点で、東名道の事故と構図を同じくする。

 同年12月、自動車運転過失致死傷罪(現・過失運転致死傷罪)に問われた男に対して、宇都宮地裁は懲役1年4月(求刑2年)の実刑判決を言い渡した。今井氏は12年の控訴審を傍聴した。「控訴が棄却され、一審判決の1年4月が確定した」

 控訴審で明らかにされたのが、民事での賠償責任の割合比率だった。

「民事の責任は、後ろから突っ込んで亡くなったトラックの運転手が7割。残り3割を男側とバス側で分配するというものだった」

 そう話す今井氏は「運転手には適切に車を運転する安全義務違反がある。東北道も東名道の事故も、一番悪いのは追突した車。石橋被告は原因を作ったが、だからといって誰でも追突するわけではない。石橋被告が23年なら、追突した人は30年が出てもおかしくない」と冷静に語り、「ただ、私も心情としては2年足らずの量刑には賛同しかねる」と続けた。

 東北道事故では検察が求刑2年とした。それから6年。激しい世論を受けて、検察は過失運転致死傷罪より重い危険運転致死傷罪で起訴し、他に起訴した強要未遂罪など3件も含め求刑を約12倍の23年に増やした。「担当検事だけでは絶対にこの求刑を出さない。ただし、懲役2年なんて出したら、世論の矛先が検察に向かう。上司と相談して思い切って出したと思う」(今井氏)

 ただし、国民の感覚を取り入れる裁判員裁判であることから、量刑は思いがけないものになるかもしれない。一方、無罪主張する弁護側は控訴するだろう。裁判官だけの高裁の審理で、一審判決がガラッと変わり、法律上、仕方のない判決が出されるかもしれない。法治国家である限り、国民感情ではなく、法律にのっとった判決が出る。

 法律がおかしい。その通りだ。「世間が望む結果にならなければ、あおり運転を厳重に罰する新たな法律ができるだろう」(今井氏)。判決は14日。横浜地裁は頭を悩ませているに違いない。