世界に誇る研究者はワイン好きなシングルプレーヤー!? 2018年のノーベル医学生理学賞が、体内でがん細胞などの異物を攻撃する免疫反応にブレーキをかけるタンパク質を発見した京都大学の本庶佑(ほんじょ・たすく)特別教授(76)と米テキサス大のジェームズ・アリソン教授(70)に授与されることが1日、発表された。ノーベル賞の日本人の受賞は2年ぶり26人目。医学生理学賞は16年の大隅良典東京工業大学栄誉教授に続く5人目になった。お堅い研究者に見える本庶氏の素顔はワインが好きな“ゴルフおやじ”だった――。

 スウェーデンのカロリンスカ研究所は「本庶氏は、免疫細胞で働くタンパク質『PD1』を発見し、このタンパク質が免疫反応を抑制するブレーキとして作用することを明らかにした。この発見に基づいて開発されたがん免疫療法は非常に効果的で、全く新しいがん治療の原理を確立した」と授与理由を説明。発見が、さまざまな臓器のがんに効果が認められた治療薬「オプジーボ」として実用化につながったことを高く評価した。

「このオプジーボで命を救われた一人が森喜朗元首相(現2020年東京五輪・パラリンピック組織委員会会長=81)だ。15年に肺がんの手術をした森氏はオプジーボを投与され、劇的に回復したことで知られる」(永田町関係者)

 本庶氏は会見で「大変名誉なこと。長い間、苦労してきた共同研究者、学生諸君、支えてくれた家族…。本当に言い尽くせない多くの人に感謝している」と喜びを語った。

 吉報の瞬間に立ち会った茶本健司医学研究科特定准教授は「電話を置いて『ノーベル賞ですか?』と聞いたら『ウ~ン』と、おっしゃって笑みを浮かべてました。『ウ~ン』というのは、研究でいいデータが出たときに、よくされる表情なんです」と明かした。

 研究に対する姿勢について、本庶氏は「知りたいという好奇心。それと簡単には信じないこと。マスコミの人は『ネイチャー』や『サイエンス』に出てるからどうだと言うけど、出てるものの9割くらいはウソだと思ってる。論文とかで書いてることも信じない。自分の目で確信ができるまでやる。自分の頭で考えて納得できるまでやるということです」と冷静な口調で説明した。

 例年、受賞候補として名前が挙がっていた本庶氏に受賞の電話があったのは午後5時ごろだった。

「賞というのは、それぞれの団体が独自の価値基準で決めること。(受賞まで)長かったとかは感じていない。ゴルフ場によく行くんですが、メンバーの人が『アンタの薬のおかげで、肺がんが良くなって、またゴルフをすることができた』と話してくれた。これ以上の幸せはない。何の賞よりも、これで十分だ」と落ち着いた口調で語った。

 そんな本庶氏が今一番達成したいことも「ゴルフでエージシュート(自身の年齢以下のスコアで回ること)をしたい」。プロでも簡単ではないが、達成を目指し、筋トレのほか、自宅でパターの練習をし、毎週欠かさずゴルフをしているという。

 関係者が「本庶氏といえばゴルフとワイン」と口を揃えるほどで、研究室でも筋力アップのため、普段から両足に重りを巻いて歩いているというから、お堅い研究者とはイメージが異なる。

 2012年にノーベル医学生理学賞を受賞した同じ京大の山中伸弥京大iPS細胞研究所所長も、ゴルフでは本庶氏が師匠、山中氏が弟子の関係という。

 ゴルフについて本庶氏は「32歳くらいから始めました。ベストスコアは78です」と“シングルの腕前”で「エージシュートは80までに達成したいね」と笑った。会見中には、ゴルフ好きの安倍晋三首相から祝いの電話があり「誘いがあれば? 僕はゴルフは断らないほうなので」とラウンドに応じるつもりだ。

 ゴルフと研究の共通点については「ゴルフは、いかに失敗しないかという競技だけど、サイエンスっていうのは、いろんなギャンブルがあって、どれが当たるか分からないというところが違う。常にできることをやってるサイエンスってのは大した形にならない。ただ、通じるところはある。ゴルフには二度と同じ状況はない。毎回自分の頭で状況判断をして、次に何をするか考えないといけない」と語った。

 ワインについて本紙が「お酒での失敗談は?」と聞くと「(自分の)酒の限界は分かっているから、そんなのはないよ」と一蹴した本庶氏。快挙の裏にはゴルフで培われた判断力があったのかもしれない。