【アツいアジアから旬ネタ直送 亜細亜スポーツ】アンコールワット遺跡のあるカンボジア北西部シェムリアップで24日、逮捕されていた地雷除去活動家オウン・イエーク氏(45)が釈放された。

 アキー・ラーとも呼ばれている同氏は、回収した地雷や不発弾を集め、シェムリアップ郊外に博物館をオープン。そこが8月27日、突如爆発、炎上した。幸い死傷者は出なかったが、同氏は武器の不法所持容疑で地元警察に逮捕された。それから約1か月後の釈放を、関係者は喜んでいる。

 この地雷博物館は、アンコールワットと併せ訪問客が多く、ガイドブックにも載っている定番観光スポット。これまでアキー・ラー氏が回収した約5000個の地雷が展示され、地雷撤去作業についての解説や、カンボジアの戦乱の歴史などが紹介されている。同氏は独学で英語と日本語をマスターし、日本語での解説も用意されているため、日本人観光客もよく訪れる。

「彼は大の親日家。日本語で館内をガイドしてくれて感激した」とはある旅行者。その名前の響きから、日本人には「アキラ」と呼ばれ親しまれている。博物館の運営を支援する日本人もいる。

 アキー・ラー氏はポル・ポト派に両親を殺されながらも、その後ポル・ポト派の少年兵として戦い、無数の地雷を埋め続けてきた。カンボジアが平和になってからは、贖罪として自費で地雷処理にまい進。その生きざまはメディアでもたびたび紹介され、書籍や漫画にもなっている。これまで何度も来日し各地で講演。今月も北海道や東京、沖縄で平和学習講演会を開く予定だったが、その矢先に逮捕されてしまった。

 背景にあるのが、現地警察との確執だ。地元紙「クメール・タイムズ」によると、警察は「許可なく所持されていた爆弾9発、地雷15個、弾薬325発ほか多数の爆発物を押収した」としているが、1999年から長らく運営している博物館に対し、今さら感は拭えない。

 過去にもトラブルがあった。シェムリアップに国による戦争博物館が建設されることになった際、国側はアキー・ラー氏にこれまで集めてきた地雷の無償譲渡を要求し、展示物に加えようとした。それを拒否した同氏に対し、地雷撤去活動自体をやめるよう国は命じてきたという。

 表向きの理由は、アキー・ラー氏が新しく決められた地雷撤去の資格を持っていなかったから。だが世間的には、過去の悲惨なカンボジアの歴史を国内外に知らしめる同氏の存在が、国としては疎ましいのだろうとみられている。

 博物館は現在、無期限閉鎖中。ここは地雷で手足を失ったり、孤児になった若者たちを引き取り教育を施す学校でもあるだけに、早い再開が望まれる。(室橋裕和)

☆むろはし・ひろかず 1974年生まれ。週刊文春記者を経てタイ・バンコクに10年居住。現地日本語情報誌でデスクを務め、2014年に東京へ拠点を移したアジア専門ライター。最新著書は「おとなの青春旅行」(講談社現代新書)。