台湾南西部・台南市で先月、台湾初の「慰安婦像」が設置された問題で、台湾のニュースサイト「中時電子報」は10日、日本人が慰安婦像に蹴りを入れたと報じた。しかし、本紙の取材に当該人物は「加工画像だ」と真っ向から否定した。親日国であるはずの台湾でなぜ慰安婦像が設置され、こんな報道が出たのか。その背景を専門家が解説する。

 中時電子報によると、日本の保守系団体で「『慰安婦の真実』国民運動」幹事の藤井実彦氏が今月6日、慰安婦を象徴する少女像の設置を主導した中国国民党台南市支部の主任委員である謝龍介台南市議と面会。慰安婦資料問題について討論した後、同支部にある少女像に蹴りを入れる姿が監視カメラに収められていたという。謝氏はフェイスブック(FB)で抗議声明を発表。日本台湾交流協会と藤井氏に謝罪を求め、さらに台北駐日経済文化代表処駐日代表に対し、安倍晋三首相への正式抗議を要請したという。

 謝氏がFBにアップした動画は、藤井氏の背後から撮影されたもので、少女像にプロレスラー蝶野正洋ばりのケンカキックを入れているようにも見える。また、右斜め前方から撮影されたカラー画像でも同様だ。

 本紙は、少女像と並んだ藤井氏の写真を入手。謝氏がアップした画像・動画と比較した。写真では台座の端から像の中心部まで推定80センチ以上あり、台座の高さは60センチほどで、とても藤井氏の蹴り足が少女像まで届きそうもない。写真と画像・動画では、蹴り足と像の距離感が違うようにも見える。
 また、藤井氏と謝氏の面会は台湾メディアだけでなく、日本メディアも取材している。多くの目がある状況で、果たして蹴るだろうか。

 藤井氏は10日、「私、藤井実彦は慰安婦像を蹴ってはいない」として、こう説明した。「国民党は、悪意をもって私の画像を加工し、(台湾)民進党を攻撃、さらには、外交問題にまで発展させようと画策し、選挙戦の道具に利用しようと考えているものと推察する」

 この“蹴り”の体勢は別の場所で行ったストレッチで、その動きが誰かに撮影されており、少女像と加工、合成されたのではと推測している。

「日本から長時間掛けて台南に到着したが、同じ姿勢を長時間続けていたために足がうっ血し、しびれていたために、到着して何度もストレッチを行っていた。その一部が、このように切り取られたのは、日本や米国でも大きな問題になっている『フェイクニュース』と同様の悪質な手口である」(藤井氏)

 世界でもっとも親日的といわれる台湾で突如、湧き起こった騒動をどう見たらいいのだろうか。台湾には3つの異なるエスニック(民族)が混在しているという。

 古くから台湾に住んでいる「本省人」、それに対して戦後、大陸での共産党軍との内戦に敗れた国民党軍とともに渡ってきたのが「外省人」、それから「原住民」の3つだ。

 著書「300枚のユニークな広告が語る こんなに明るかった朝鮮支配」を刊行し、台湾事情にも詳しい但馬オサム氏はこう解説する。

「本省人は台湾人意識と独立志向が強く親日的です。原住民もそうですね。一方、中国人意識が強く統一志向の強いのが外省人。国民党の中核をなしていて、彼らは反日的なスタンスをとりがちです。今回の慰安婦像建立を主導したのは国民党=外省勢力には間違いはありませんが、その裏には中国共産党の思惑が動いていることを見逃してはいけません。つまり、親日的といわれる台湾に慰安婦問題の火をたきつけ、日台の離間、ひいては中台統一へ世論を導こうという狙いです」と指摘している。