猛烈な風や車を流す高潮などをもたらした「非常に強い勢力」の台風21号は、北陸や日本海沿岸を北上し、日本列島から離れつつある。4日には徳島県南部に上陸後、神戸に再上陸。四国、近畿地方を暴風圏に巻き込みながら縦断し、死者や負傷者が出た。西日本豪雨に続く気象災害に、防災アナリストは「災害は起こりうるもので、なぜ行政が口酸っぱく言わないのか!? 被害はもっと防げた」と厳しく批判した。

 4日朝方には青空も見えた大阪市内だったが、午前11時ごろから天候が急変。台風が神戸市付近に再上陸したとみられる午後2時ごろをピークに、最大瞬間風速50メートルを超える猛烈な風と、横殴りの激しい雨に見舞われた。

 暴風により各地で停電が発生。屋根や看板が吹き飛ばされたり、電柱や街路樹がなぎ倒されるなどの被害が相次いだ。風にあおられたことによる転落や、飛来物が当たったことが原因の死者も出るなど8人が死亡、負傷者は全国で約200人に上った。

 過去最大規模の高潮による被害も起きた。この日が開港記念日だった関西空港も滑走路などが浸水。停泊していたタンカーが連絡橋に衝突した前後の午後1時38分には、関空島では観測史上最大となる瞬間風速58・1メートルを観測していた。タンカーの衝突で連絡橋が通行できなくなり、関空では利用客ら5000人が孤立した。

 気象庁によると風速20メートル以上で樹木の枝が折れ、看板が落下し始める。25メートル以上で走行中のトラックが横転することがあり、35メートル以上で樹木や電柱が倒れ、40メートル以上で倒壊する住家があるという。

 台風の襲来にあわせ、交通網もマヒ状態。百貨店も軒並み休業。従業員の安全を確保するため、多くの企業や工場、飲食店なども臨時休業となった。大阪有数の“ちょんの間”料亭街・飛田新地でも営業している料亭は少なめ。引き子の女性は「ウチは女の子が来れたから通常営業したけど、電車も止まってるからお客さんも少ない。台風が過ぎたら、遊びに来てくれるといいんやけど」と話した。

 大混乱の中、いつも通り出社した大阪府在住の会社員は「ウチは通常通り。大事なアポが入っていたから出勤した。会社が休みにするって言ってくれればいいんやけど、『無理のない範囲で』とか『安全には注意して』とかあいまいで従業員任せ。何か起きた時の責任回避なんだろうけど…」と不満を口にした。

 台風が“非常に強い勢力”で上陸するのは25年ぶりとあって、襲来前から「不要不急の外出は控えてください」と盛んにアナウンスされ、鉄道も前日から運行を見合わせる情報を出したが、そうもいかないのがサラリーマンのさがだ。

 元東京消防庁消防官で防災アナリストの金子富夫氏は「災害心理学で『正常性バイアス』っていうんですけど、『早め早めの対処を』って言われても、市民はどうしても自分は関係ない、大丈夫だと思っちゃって対策しない。危機概念が欠如してるんですよ」と日本人のメンタリティーを指摘。

 続けて「日本人が勤勉だからといって、危ないものは危ない。会社の社長なりが『会社に来るな』って言うべきなんですよ。そうしないと従業員は判断できない。それができないなら、行政機関が後押ししたらいい」と提言した。

 実際、台風直撃が多い台湾では金子氏の提言が実施されている。台湾人は「台湾では、危険なレベルの強い台風が来ると分かったら、前日に自治体が“台風休暇”を発表します。それでも強制的に社員を出社させる会社は、4倍の給与を払わなければならなくなるケースもあります」と語る。

 天災の中でも、地震と違って、台風はかなり前から来ることが予測できるものだ。

 金子氏は「災害は起こりうるもので、発生した時にいかに即対処するのかが重要。防災の日には日本中で地震訓練を行っていましたが、台風は来るのが分かっている。訓練じゃなく本物なんです。何で府なり市なり行政が口酸っぱく言わないのか。官邸でもいいんです。ニュースでは伝えてましたが、官邸がしつこいくらいアナウンスしましたか? 自衛隊を各自治体に事前派遣すれば人命救助もできたかもしれない。なぜしないのか。被害はもっと防げたはずで残念です」と話した。