北朝鮮で今月拘束されたことが明らかになった日本人男性は、スパイ容疑が適用されれば拘束が長期化し、外交交渉の取引材料にされる可能性も取りざたされている。男性は同国西部の軍港都市・南浦(ナンポ)で軍事施設や艦船を撮影した疑いをかけられたとの情報も。なぜ、拘束されたのか。調べてみると、北朝鮮ならではのタブーがあった。

 消息筋によると、男性は滋賀県出身で都内在住の自称映像クリエーター(39)。

 欧州系の旅行会社が主催するツアーに参加し、10日に南浦で拘束された。本来は13日に出国する予定が、現在も消息が不明のままとなっている。

「男性はブログやツイッターのアカウントを持っていたが、書き込みやフォロー先をいくら探っても北朝鮮マニアとは一切接触がない。時々ある朝鮮関係のイベントでも、見かけない顔だ」(北朝鮮ウオッチャー)

 だが、英語力が必須の欧州系旅行会社を使うのは日本人では珍しく、過去にも訪朝歴があるとの情報からも「北朝鮮に秘めた思いを抱く隠れマニアかもしれない」(同)という。

 南浦市は平壌から半日ほどの旅程で往復できるため、以前から観光地としてメジャーな場所という。日本の北朝鮮研究者は「南浦まで片側4車線の『青年英雄道路』という、北が自慢の高速道路を走る。この道路周辺に危険な施設がある」と警鐘を鳴らす。

 先月末、米紙ワシントン・ポストが平壌郊外の施設で「液体燃料を使った大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発を続けている形跡がある」と報道。6月の米朝共同声明を揺るがす疑惑の施設は、衛星写真から見ると高速のインターからすぐの場所にあり、カメラで何げなく車窓を写すと入ってしまう。

 また「南浦閘門(こうもん)が最大の見どころで、見晴らしのいい丘に小さい展示施設と展望台がある。そこで『入らないでください』と言われた場所があった」とは首都圏に住み、かつて南浦を観光した経験がある30代の男性だ。

「展示施設の中は写真撮影がNG。外の展望台からは閘門と貨物船の写真を絡めて撮ってもおとがめなしでしたが、コンクリートの土台が広がる中で、正方形の大理石が4枚はめ込まれた一角があり、そこだけは係員の女性に注意された」

 不思議に思った男性が日本語ガイドに理由を聞くと「偉大なる金正日総書記が現地指導で立たれた場所だから」と耳打ちされたという。男性は「少しヒヤリとした。看板や柵もないので、気付かず入ってしまいそうだ」と証言する。

 前出の研究者は「“聖域”に入っただけで拘束まではしないだろう。ただし、そこでつばを吐いたり、ごみを捨てたらダメ。『禁止』と言われたのに港内で船の写真を撮影したのがまずかったのかもしれない」と、北朝鮮側の言い分がどうなるかに関心を寄せている。