西日本豪雨「心の傷」どう向き合う 恐怖体験克服へ精神科医がアドバイス

2018年07月13日 17時00分

甚大な被害が出た岡山・倉敷の真備町(ロイター)

 西日本豪雨の被災地での死者は12日、14府県で200人を超えた。共同通信のまとめでは、依然として60人超の所在が分かっていない。甚大な被害が出た岡山、広島、愛媛各県などでは警察や自衛隊、消防が7万人以上の態勢で安否不明者の捜索を続けた。総務省消防庁によると、12日午前5時半時点で計約7000人が避難生活を余儀なくされている。命を守ることができた人も、今後は大雨のたびにPTSD(心的外傷後ストレス障害)に悩まされる恐れがある。専門家に対策を聞いた。

 西日本豪雨による死者は200人を超え、死者・不明者が299人に上った1982年の長崎大水害以降、最悪の豪雨被害となった。

 総務省消防庁によると、避難指示・勧告対象は最大で23府県、約863万人に及んだ。7日に19府県で4万2000人を超えた避難者は15府県で7085人(12日正午時点)。

 安倍晋三首相は12日、官邸で開いた非常災害対策本部会合で、被災者の当面の住まいとして、公営住宅や民間賃貸住宅など計7万1000戸を確保したことを明らかにした。順次、入居者の募集を始めるという。

 今後は被災者に次のリスクが懸念される。夏の酷暑だけではない。心の傷として残るPTSDの発症だ。

 PTSDとは、戦争や天災、拉致や監禁といった、自分の力では解決できない圧倒的な力に支配された結果、強い恐怖を経験した人に起きる精神疾患。もちろん、こうした体験をした人の誰もがPTSDになるわけではない。その原因はいまだ解明されていないが、同じ事故にあっても、PTSDになる人とならない人がいるという。

 先日「いい子をやめれば幸せになれる」(弘文堂)を上梓した、精神科専門医の山下悠毅氏はPTSDについてこう説明する。

「具体的な症状としては、過去の恐怖体験が突然思い出される『フラッシュバック』や、常に神経が張り詰めているための『不眠や過覚醒』、そして記憶に関連する場所を避けてしまう『回避行動』などが出現します。もちろん、こうした症状は恐怖体験をした方は誰にでも少なからず表れます。しかし、体験から1か月以上たったにもかかわらず、症状が続くようであればPTSDが発症している可能性が高い。専門医への受診をお勧めします」

 では、そうした圧倒的な恐怖を体験した被災者らが、PTSDの発症を防ぐにはどうしたらよいのか。ポイントは「体験記を人に話し過ぎないこと」だという。

 山下氏は「身近につらい体験をした人がいたならば、多くの人が心の傷を癒やそうと、その体験に耳を傾けてあげたくなるものです。もちろん、それは間違っていません。しかし、命が危険にさらされるようなレベルの体験をした方に対して、こうした行動を取り続けることは望ましくありません。なぜなら、それは相手の記憶を強化する行為だからです」と言う。

 学生時代の受験勉強しかり、記憶を強化するのに大切なことは徹底した反復作業だ。なぜなら人の記憶は反復により強化、固定されるからだ。

「PTSDという病態は記憶の固定によって悪化されてしまうのです。ただし、トレーニングを受けた専門家の治療には、あえて記憶を呼び起こすものもありますが…。もちろん、一度は誰かが被災者の恐怖体験を聞くことは私も賛成です。しかし、繰り返し、よかれと思って親しい方やメディアなどの取材によって被災者がその体験を語ることは避けるべきだと言えるのです」(山下氏)

 では、そんな被災者がPTSDを発症しないために、自身がすべきことは何か。

 山下氏は「それは『忙しくする』ことなのです。忙しいという漢字は『心を亡くす』と書きますが、悲惨な体験をしてしまった方はあくまでも可能な範囲内ではありますが、日々の生活を忙しくすることが大切だと言えます」と指摘している。