米朝首脳会談開催のシンガポール それよりも住民が気にする重大問題

2018年06月07日 17時00分

超豪華なフラトンホテル

【アツいアジアから旬ネタ直送 亜細亜スポーツ】スッタモンダの末、12日、米トランプ大統領と金正恩朝鮮労働党委員長の米朝首脳会談がシンガポールで行われる。現地にはすでに世界中のメディア関係者らが殺到しているが、そんな狂騒をよそに地元民は至って冷静。「『首脳会談は自分たちの生活や利益に関係がない』と市民は割り切っている」とは、現地在住記者の宮崎千裕氏だ。

「シンガポール人は現実的かつ実利的。米朝会談よりむしろ、マレーシアの新政権がシンガポールとの高速鉄道計画を中止すると発表したことのほうが大きな話題になっている。すでに莫大な費用を投じた公共事業が頓挫すれば、シンガポールにとって大きな損失というだけでなく、隣国マレーシアとの関係がこじれるかもしれない」

 5月に誕生したマレーシア新政権は、前政権が残した約1兆リンギット(約27・5兆円)もの巨額債務を減らすため、大型インフラ事業の見直しを進めている。マレー半島を縦断する予定だった高速鉄道もやり玉に挙がり、米朝会談よりこっちのほうが重要案件というわけだ。

 また地元民は、会談そのものより当日の通勤のほうが心配なようだ。「3年前の3月、リー・クアンユー初代首相の国葬の際には、霊きゅう車の移動に合わせ交通が規制され、交通機関に大きな影響が出た。今回も同様に交通が乱れ、職場に出勤できるか、帰宅できるかという声も多い」(宮崎氏)

 市民に不満が広がる理由は他にもある。ホスト国となってしまったシンガポールは警備費用のほか北朝鮮代表団の宿泊費も負担するのでは、という現地報道が相次いでいるからだ。

「北朝鮮側の宿泊先として有力視されているのは、シンガポールの国定史跡に認定され歴史・高級感ともバッチリの『フラトンホテル・シンガポール』で、ここの最高級スイートは1泊8000シンガポールドル(約66万円)。地元の人々からは『金正恩と取り巻きたちがフラトンでぜいたくする金を、我々の税金から払うのか』『カネをドブに流すようなもの』といった否定的な意見が出ている」と同氏。

 ちなみに会談会場はシンガポール本島の南、セントーサ島の高級リゾート「カペラホテル」に決まった。小島で警備を固めやすいのに加え、セキュリティーが確保された複数の会議室やビジネスセンターなども完備。宿泊代は1泊5万円が最低価格帯で、一番高い部屋(約435平方メートル)は1泊約100万円もする。

 北朝鮮御一行の宿泊先は、フラトンかカペラの可能性が高そうだが、会談場所とは別という話も。テロを警戒し、シンガポール政府はギリギリまで公表しない方針だ。いずれにせよアジア一の富裕国家だが、市民は近年の物価・税金の上昇にあえいでおり、そんな最中の散財ニュースは実利優先のシンガポール人を激怒させかねない。

 一方、歴史的会談をビジネスチャンスと捉える動きも。市内のあるバーでは、バーボンベースの青いカクテル「トランプ」と、朝鮮半島の焼酎ベースの赤いカクテル「キム」を、開催日にちなみ12・6シンガポールドル(約1030円)で販売する。会談に伴う多額のコストについては「歴史的イベントでシンガポールの宣伝になる。そう思えば少額の投資だ」という声もあるにはある。(室橋裕和)

☆むろはし・ひろかず 1974年生まれ。週刊文春記者を経てタイ・バンコクに10年居住。現地日本語情報誌でデスクを務め、4年前に東京へ拠点を移したアジア専門ライター。最新著書は「海外暮らし最強ナビ・アジア編」(辰巳出版)。

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