模範囚プリズンの実態 元受刑者が明かす鉄の掟

2018年05月10日 08時00分

 松山刑務所大井造船作業場(愛媛県今治市)から脱走した受刑者平尾龍磨容疑者(27)が22日間の逃亡の末、広島市で逮捕されたのは、ゴールデンウイーク最中の4月30日だった。広島県尾道市の向島で、住宅の屋根裏に潜伏し捜索の網を逃れ、海を泳いで本州へとの逃走ルートはほぼ解明。一方で、「塀のない」刑務所施設の在り方などの課題は残されたままだ。

“和製プリズン・ブレイク”平尾容疑者は脱走理由について「刑務官の前でふざけたら目を付けられ、受刑者のリーダー的役割につけてくれなくなった」などと話しているという。

 同作業場は模範囚中の模範囚の集まり。全国の初犯刑務所に入っている受刑者の中から、IQテスト上位者や面接や親族との文書のやりとりなどでも「逃げたい」ということを一切考えていないことが分かる者だけが、刑務官の推薦によって入所することが許されている。いわば“受刑者のエリート集団”だ。

 開放的矯正施設の同作業場には、受刑者に会長などの役割を与える「自治会」と呼ばれる制度がある。そのため、同作業場にはヒエラルキーが生じてしまったようだ。元受刑者がこう明かす。

「自治があって、『寮長』と呼ばれるトップには絶対服従。逆に新入りは『ペイ』と呼ばれ、通常は次の新入りが入ってくるまでペイだが、寮長ににらまれるとペイの期間が延びることもある。一般の刑務所の比ではないルールがあり、それを破るとペナルティーが待っている」

 このペイとは、一兵卒や新兵のペイだという。また、直立不動の姿勢のまま何時間も説教されるのは日常茶飯事。元受刑者が一番キツかったのが、ルールを破った際の「シャリ詰め」だ。

「一般刑務所の場合、おかずや週末のデザートを取り上げられる“シャリ上げ”があるが、“シャリ詰め”ってのは、メシ食べ放題の大井造船作業場では逆に、超大盛りのどんぶり飯3杯を食わなきゃならない。普通のどんぶり飯6杯分以上で、吐きながら食わされた」

 また寮長や先輩受刑者に対し、ちょっとした意見を言ったり異を唱える行為を「山返し」と言い、それにもヒドい仕打ちが待っているそうだ。

「模範囚中の模範囚の集まりだし、真面目に務めれば仮釈放は長くもらえるが、聞くと見るとじゃ大違い。鉄のおきてがあり、独自のルールやペナルティーが存在する。仕事がキツイのは承知の上だが、精神的にやられてしまう場所だ」(元受刑者)

 ある刑務所の元長期受刑者は「刑務官に怒鳴られるのは慣れているけど、同じ立場のはずの受刑者に堂々と怒鳴られたり、罰を与えられるのはガマンできないな。殴るか、逃げるかになるんじゃないかな」と言う。

 大井造船作業場から松山刑務所へ帰ることもできない。元刑事の犯罪ジャーナリスト・小川泰平氏がこう解説する。

「刑務所には洗濯工場や金属工場、印刷工場など数多くの作業所があるが、『この工場はキツイから替えてくれ』なんて受刑者は簡単に言えない。言おうものなら即懲罰で、そうなると仮釈放どころではない。今までが水の泡になる」

 刑期は満期でもあと2年を切り、自身も「あと半年で出所(仮釈放)できた」という認識だった平尾容疑者。約3週間の逃亡中の住居侵入や窃盗などの罪が加わり、刑期はあと3~5年延びそう。

「法務省が逃亡防止策として、受刑者へのGPS(衛星利用測位システム)を検討しているという話がある。確かに警備態勢の見直しも必要かもしれないが、見直すところはそこではないと気付いてもらいたい」と小川氏は指摘する。