「南北融和ムード」の台本 首脳会談は“出来レース”

2018年05月08日 08時00分

金委員長(右)と握手するポンペオ氏(ホワイトハウス提供・ロイター)

 世界が注目した南北首脳会談が先月27日に実現し、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長と韓国の文在寅大統領は、朝鮮戦争終戦と朝鮮半島の非核化を目指すことで合意に至ったとする板門店宣言を出した。文大統領は南北関係の改善に関して「トランプ米大統領がノーベル平和賞を受賞すべきだ」と持ち上げ、トランプ大統領は近日、米朝首脳会談を行う場所と日時を発表する意向を明かしている。朝鮮半島を巡る動きで蚊帳の外のように映る日本だが、警鐘作家の濱野成秋氏はトランプ大統領が仕掛けたシナリオを読み解いた。

【警鐘作家・濱野成秋氏が読み解く】今回の南北劇、ここまで日本不利の出来レースを見せつけられては腹が立つ。むろん、影の仕掛け人はトランプ。米国一の仕掛け人である。

 トランプが仕組んだこの画策。今後の進展が今から読める。下手すると日本がまた何兆円かをムダにする。南北両陣営が相まみえる直前、米国から情報局一の策士・ポンペオが北に飛んだ。トランプと合作した台本を持って。米CIAのトップを右腕に、戦略巧者トランプが、金委員長に示したシナリオの表層部分は茶番劇となって世界中を沸かせたが、その共同声明(板門店宣言)にはトゲがある。

 米国は建国以前から策謀巧者である。対外戦略の周到さは毎回入念を極め、建国以来240年、交渉前には必ず黒子が暗躍し、正式会談の時ではすべて決している戦法。失敗した試しがない。

 テレビが見せてくれた南北首脳が演じたライブ画面の一挙手一投足。軍事境界線を挟んでお手々つないでぴょんぴょん。ブルーの手すりで囲まれたデッキで二者がメモもなくトークしたシーンや山道会談のシーン。あとは晩餐会の優雅な話し合い。こんな矢継ぎ早の経過で、出来レースなくして、あれだけ緻密に凝縮した交換文書の文案が出来上がるわけがない。

 まずは南北が休戦状態をやめて終戦、平和協定(の方向)となったのは、補償問題や謝罪抜きでは絶対不可能。平和協定がメモ一つなくまとまるにはわけがある。

 終戦後、敗戦国に強要するのは賠償である。今回の戦争終結問題は、朝鮮戦争のことだと世論は簡単に受け止めているようだが、北の事情は複雑で、朝鮮戦争以前、第2次大戦の勝者は米国と南北朝鮮であり、敗者は日本なのに、米国は日韓を束でくくって北を敵視した。

 これは北には不満で、北は朝鮮戦争休戦後の1999年にも日本に対し「対北朝鮮圧殺政策の放棄、過去の罪に謝罪と補償」を求める政府声明を出し「植民地支配に対する過去の清算」を要求し続けている。

 日本はこれに対し「財産請求権」として処理すべきであると反論して今日に至る。今までは休戦中だから日本は米国の陰に隠れて、賠償問題を先延ばしに放置し、拉致問題を前面に押し立てて、いわばそれを盾として対抗してきた。

 ところが突如、平和協定締結となり、にわかに賠償問題の矢面に立たされることになった。韓国はまたしきりに「対日請求権資金」を要求し続け、今回の慰安婦問題もその一環といわれるが、当初3億ドルだったのが40億ドル、日本円にして4100億円相当に達する。

 それに民間ベースの「商業借款供与」という催促なし借金をせびられ、南北統一後はさらに要求される恐れが濃厚。米国は見て見ぬふりだろうから、日本だけが踏んだり蹴ったりの目に遭うわけだ。

 今までは休戦中だったから、行かなくてよかったが、これからは怖い。日米同盟のおかげで日本は武器のいらないプラント建設を北朝鮮の北辺、シベリア地帯のような不毛地帯でやらされるはず。カネと技術供与、技術者派遣を家族付きで要請され、社宅、病院、学校その他諸々の施設を何百と造らされ、出向を余儀なくされた日本人は体の良い人質にされる懸念が明確に出て来た。

 海外協力隊はもちろん、戦闘地以外となった中北国境付近の僻地には自衛隊が丸腰で派遣され、ダム、橋梁、採掘、製錬所に従事させられるだろう。それが米国の指示だと、断り切れまい。資金は北からも米国からも出ない。

「ジャパンが自腹でやれよ。いやか? だったら日本から来る製品すべてに高い関税をかけるぞ」とトランプが出るだろう。かくて経済戦争はトランプの思惑通り、先刻、出来上がっているシナリオ通りにやらされるのである。(警鐘作家)