スポーツ選手の「セカンドキャリア」が社会的な関心事となる中、欧州サッカーのトップで活躍を続けたある選手の転身が大きな注目を集めている。

 イタリア1部ユベントスやイングランド・プレミアリーグのアーセナルなどでプレーした元スイス代表DFステファン・リヒトシュタイナー氏(37)は昨年8月、20年にわたる現役生活に別れを告げ、引退を発表した。スイス、フランス、イタリア、イングランド、ドイツの5か国を渡り歩き、出場試合数は500試合超。スイス代表としても2014年ブラジル、18年ロシアとW杯2大会に出場し、最後はキャプテンマークも巻いた。守備の要としてA代表出場108試合という「名バイプレーヤー」だった。

 そんなリヒトシュタイナー氏はサッカー界で第2の人生を歩むことを選ばず、母国・チューリヒを拠点とする時計メーカー「モーリス・ド・モーリアック」社で時計職人になるため、最長で6か月間の研修を行っていることを明かした。

「銀行員であれば、おそらく一生その仕事を続けていられるが、30歳半ばを迎えるサッカー選手は他の仕事を考えなくてはならない。私は何か生産的なことがしたいんだ」

 今回の研修プログラムで完成する時計はチャリティーの一環として売りに出す予定だという。もちろん、この流れで本格的に時計職人としての道を歩むことを視野に入れているが、まだ将来の身の振り方を決めているわけではない。指導者としてサッカー界に戻る可能性もある。スイスサッカー界の「顔」として活躍してきただけに、引く手あまただからだ。

 そんな中、リヒトシュタイナー氏は時計職人とサッカーの共通点も見いだしている。

「時計作りとサッカーはよく似ている。サッカーはチームのすべてが完璧でないと勝つことはできない。時計も同じ。すべてのパーツが完全に配置されていないと時計は機能しない」

 現役時代に成功を収めたサッカー選手でも、引退後に同様の成功を収められる者は限られている。日本でも「元プロ選手」の肩書がありながら、サッカーで食べていけない人たちも少なくない。そういう意味でリヒトシュタイナー氏の〝異業種〟へのチャレンジは異例。最終的にどんな選択をするのか、気になるところだ。