“日本サッカー界の至宝”は大丈夫だろうか。スペイン1部ビリャレアルで出場機会に恵まれないことから同1部ヘタフェに移籍した日本代表MF久保建英(19)の今後に不安がささやかれる。これまで久保と同じように10代で海を渡るなど、将来を期待されながらも成功できなかった日本選手たちをサッカー界では「早熟の天才」と呼ぶ。スペインに再上陸し、2季目を迎えながらなかなか浮上できない“至宝”にも、その危険性が指摘されている。

 2019年6月に世界屈指のビッグクラブ、スペイン1部レアル・マドリードと電撃契約。世界を驚かせた久保は同8月にレンタル移籍したマジョルカで35試合4得点をマークした。今季は欧州リーグ(EL)にも参加する強豪ビリャレアルに加入したものの、クラブ生え抜きのMFジェレミー・ピノ(18)ら若手の急成長で出番が激減。現状を危惧した久保は再移籍を求め、1月に同1部ヘタフェへ加入した。

 Jクラブ強化担当者はビリャレアルに所属している当時に「久保君が試合に出られないのは、力が足りないから。絶対的な力があれば、どんな監督でも起用する。実際に10代ながらレギュラーとしてプレーしている選手はたくさんいるし(2部に降格した)マジョルカでは試合に出られても、上位クラブでは、まだ難しいというところではないかな」と分析した。

 その上である懸念を訴える。「これまで若くして海外に移籍して失敗した選手もたくさんいるでしょ。早熟の天才? そう。すごく期待されて“将来のエース候補”とか東スポを含めたマスコミは書きたてたけど、10代で海外移籍しても、みんながみんな成功できるわけではない。誰とは言わないけど、そのままパッとしない選手もいれば、潰れていく選手もいたから」と指摘した。

 Jリーグ創設以降、多くの選手が海外進出を目指す中、最も将来を期待されたのは、中学生ながら東京VでJリーグデビューを果たしたFW森本貴幸(32=現ギリシャ3部AEPコザニ)だ。04年3月のデビュー戦では当時Jリーグ最強の磐田DF陣をスピードと軽快なステップで翻弄。圧倒的なパフォーマンスを披露し、日本サッカー界に衝撃を与えた。

 Jリーグ最年少出場となる15歳10か月6日(当時)を記録し、15歳11か月28日というJ1最年少ゴールをマークした逸材で、プレースタイルや容姿が元ブラジル代表FWロナウドに似ていることから「和製ロナウド」と呼ばれるなど次世代エースとして期待された。06年、国際移籍が解禁となる18歳でイタリア1部カターニャに移籍。22歳のとき、日本代表として10年南アフリカW杯メンバーに選出されているが「若手枠」での選出で出番なし。13年にJ2千葉で日本復帰後も活躍できていない。

 長崎・国見高時代に「怪物」と呼ばれたFW平山相太(35)も大成できなかった一人だ。190センチの高さと足元のテクニックを武器に正月の全国高校選手権で史上初の2年連続得点王に輝き、日本サッカー界の星として注目された。その後、筑波大に進学。04年アテネ五輪メンバーに選出されたものの、20歳になった05年に大学を休学し、オランダ1部ヘラクレス入りした。ただ期待されたプレーを見せられず、06年に帰国。FC東京へ入団したものの、主力として定着することはなく、仙台に移籍後の17年シーズンで引退した。

 愛知・中京大中京高から11年にイングランド・プレミアリーグのアーセナルへ移籍したFW宮市亮(28=現ドイツ2部ザンクトパウリ)も伸び悩んだ。スピードを武器にレンタルに出されたオランダ1部フェイエノールトで圧巻のパフォーマンスを披露し「日本サッカー界の希望」とまで言われた。ただ、その後は度重なる負傷に見舞われて、現在まで大成功と言える活躍は見せられていない。

 また、V川崎(現J2東京V)で「天才」と呼ばれ、同世代で日本代表のエースとして君臨したMF中田英寿(43)よりも将来を期待されたMF財前宣之(44)も1996年に19歳でスペイン1部ログロニェスに移籍。クロアチア1部のリエカでもプレーしたが、やはりケガなどで日本代表に選出されることもなかった。その他にも「次世代エース」と期待され、若くして海外進出を果たすも大成しなかった選手は多数いる。

 前出の関係者は「それぞれうまくいかなかった事情は違うと思う。ケガもあるだろうし、言葉を含めて海外生活になじめなかったとか、外国人枠などのチーム事情もあっただろう。ただ、若いということは心身両面を含めて経験値が浅いということ。そこは一つの要因としてあるのかもしれない。まあ、久保君の場合は、そうした心配はないと思うけど」と語る。

 ただ、指揮官に請われて加入したビリャレアルで失敗したように久保でさえも先行きは不透明といえる。「日本の至宝」と呼ばれる天才は荒波を乗り越えて、サッカー界で大成功を収められるだろうか。