スペインサッカー界で日本人が成功する秘訣とは――。ビリャレアルをはじめスペインの強豪クラブで要職を歴任し、今年3月にJリーグ入りした佐伯夕利子理事(47)に本紙がインタビュー。日本とスペインのサッカーの違いや日本人指導者が海外で成功するためのポイント、長年在籍したビリャレアルとMF久保建英(19)の“実情”について語った。

 ――スペインでは12年在籍したビリャレアルをはじめ強豪クラブで指導者やフロントなど数多くのキャリアを重ねてきた

 佐伯理事 1992年に父の仕事の関係でスペインに来て、地元のスポーツ団なら語学が上達するとサッカーを始めた。その後サッカーで生計を立てたいと思い、指導者ライセンスを取った。ここ10年は現場だけでなくマネジメント、統括責任者などクラブから求められるものも変わってきた。

 ――日本人が海外で指導を行うのは大変なことも多かったのでは

 佐伯理事 コミュニケーションの難しさを感じた。一番時間がかかったのは文化的な背景や、相手のバックグラウンドを理解すること。選手として海外に移籍するのとはワケが違う。選手は言葉が分からなくてもパフォーマンスが良ければなんとかなるが、指導者は人間関係の構築などがチーム全体に影響する。

 ――日本人指導者が海外で成功するためには

 佐伯理事 言語はあくまでツールで、指導者としての能力ではない。通訳をつけるのも一つの手だが、外国人選手は自分たちの言葉で理解できないとすごいストレスになる。相手を知るため歩み寄り、彼らが育ってきた教育現場を知り、彼らの家庭での会話を見聞きする。そういった努力がなければいけない。

 ――日本とスペインのサッカーの違いは

 佐伯理事 日本も競技レベルは急激に上がったが、選手が自発的に考えて行動に移す決断ができない。指導の現場で、彼らに考えさせる環境を常に心がけないと大舞台に立って試合の状況を判断できない。そこから抜本的に変えないと、日本で自主性を持ったアスリートが育っていかない。

 ――ビリャレアルで要職を務めクラブを知り尽くしているが、注目を集める久保とクラブの現状をどう見るか

 佐伯理事 久保選手がレンタルされるとなって手を挙げたチームは相当多かったようだが、ビリャレアルは選択肢の中でベスト3に入る。日本のサポーターから見ると出場機会が少ないとかイライラがあると思うが、コーチングスタッフは(契約期間の)11か月のスパンを見て物事を考えて決定していく。例えば5節まで何分しか出場機会がないとか、所属クラブに戻せとかそういう発想は小さすぎる。本人はスペインのサッカー界で育てられてきた選手だから、全然焦りはないと思う。外野がそういう方に引っ張っていくのは選手にとってよくないでしょう。

 ――スペインで培った慧眼がJリーグでも期待されている

 佐伯理事 フットボールの世界は狭くて似たような視座を持った人が多く閉鎖的になる弊害もある。スペインで行われていることなどを共有して、それを上手に日本サッカーに応用してもらえれば。(目標は)欧州5大リーグで常に活躍できるトップレベルの選手を日本から輩出すること。

 ☆さえき・ゆりこ 1973年10月6日生まれ。福岡県出身。2003年にスペインサッカー界で女性として初めて男子チームのプエルタ・ボニータの監督に就任。04年からアトレチコ・マドリードの女子チーム監督などを務め、07年にはバレンシアに移り育成の中枢を担う強化執行部セクレタリーを務めてスペイン国王杯優勝にも貢献した。08年からはビリャレアルでトップチームをはじめ全カテゴリーの育成と強化を担う重要ポストや、ユースチームのスタッフ、女子チーム監督など多岐にわたって活躍。同クラブを休職し、今年3月から2年間の任期でJリーグ理事を務めている。