「カイザー」長谷部の12年の変化 Eフランクフルトと契約延長&アンバサダー契約

2020年06月08日 16時40分

ドイツで成功した長谷部の変化とは?(ロイター)

 コロナ禍はサッカー選手の契約面にも影響を及ぼしそうだ。特に欧州では今季限りで所属クラブとの契約が満了する選手は、6月末がその期限になる場合が多い。今回の長期中断により、本来プレシーズンとなる7、8月に今季残り試合を消化するリーグもある。そうなると短期の契約延長もしくはそのまま満了し、浪人を余儀なくされる選手も。改めて、デリケートな問題だ。

 そんな中、うれしいニュースが飛び込んできた。長谷部誠が現在所属するドイツ1部リーグのEフランクフルトと契約延長。さらに現役でありながらクラブアンバサダーとして3年契約を締結した。2008年に渡独し、12年が経過。ドイツではチームの支柱的選手にフランツ・ベッケンバウアーの愛称「カイザー(皇帝)」と名付けるが、今や長谷部もその一人。本職のMFにとどまらず、本家カイザー同様にリベロからチームを下支えする役割が板についてきている。

 欧州トップレベルで長くプレーし、クラブのレジェンドとして扱われる。そんな日本人選手は今のところ長谷部をおいて他にはいない。ただ彼も、かつてJリーグでプレーしたころのキャラクターは現在とは異なっていた。

 ちょうど今回のコロナ禍で過去の名試合が再放送される機会が多い。先日、06年J1最終節、浦和レッズが前年覇者のガンバ大阪に勝利しリーグ初優勝を果たした一戦を見ていた。目を奪われたのは、長谷部のプレー。現在のボランチやリベロの位置で冷静にゲーム運びする姿とは違い、相手ゴール前やサイドに果敢に飛び出しては積極的にドリブル勝負も仕掛ける。もともとは攻撃マインドの高い選手だったことを再認識させられた。

 昔との比較について、フランクフルトで長谷部に聞いたことがある。

「正直、過去の自分との葛藤はある。例えばプレーにしても、浦和時代はもっと攻撃的だった。ドイツに来ていい意味で現実をしっかり見極めた。逆を言えば攻撃的な部分を追求できなかった自分がいたのも事実で。何が正解かはわからない。でもここで生き残るために変わるしかなかった」

 ピッチ外でも「若いころは結構お酒を飲むことも(笑い)。でも今は年に一回のオフの時ぐらい」と、変わった長谷部。彼は間違いなくここまでに捨ててきたものがある。ただその対価は計り知れなく大きかった。今やドイツで、指導者を目指す未来まで現実的に描ける男。そして誰よりもリアルに目を向け、生きてきた選手。現時点でもそのキャリアは称賛に値する。

 ☆にしかわ・ゆうき 1981年生まれ。明治大卒。専門紙「EL GOLAZO」で名古屋を中心に本田圭佑らを取材。雑誌「Number」(文藝春秋)などに寄稿し、主な著書に「日本サッカー 頂点への道」(さくら舎)がある。