【取材の裏側 現場ノート】ドイツW杯開幕直前の2006年5月30日、ジーコ監督率いる日本代表はレーバークーゼンで開催国のドイツ代表と国際親善試合に臨んだ。本紙記者も現地で取材したのだが、その試合中に思わぬ〝アクシデント〟に見舞われた。

 W杯優勝候補との試合は前半を0―0で折り返すと、日本はドイツ1部ハンブルガーSV所属で新シーズンから同1部Eフランクフルトに移籍することが決まっていたFW高原直泰が後半12、20分と立て続けに2ゴールを決め、日本がまさかのリード。親善試合とは言え、相手は世界屈指の強豪だけに「このままいけば、歴史的な勝利になる」と考えていると、後方からもの凄い圧を感じる。思わず振り向くと、そこには身長2メートル、体重100キロ超の屈強な警察官が立っていた。

 しかも頭にはヘルメット、背中に盾を装着。腰にはライフルのようなものと警棒を下げるなど、まるで機動隊のようなフル装備だ。どうやら記者を含めた日本メディアの観戦エリアが高原の好パフォーマンスに、はしゃぎ過ぎてしまったことが理由のようだった。後に聞いたところ、ドイツでは熱狂したサポーターが暴動などを起こさないようにカメラでスタンドを監視。予兆があれば抑制する処置が取られることは珍しくないという。

 ただ、くしくも記者の真後ろに陣取っていたため、試合を観戦していた地元の方々からも〝何事か〟と視線を集める始末。そこで「すみません。もう静かにしてますので…」と話しかけて見たものの、微動だにせず、ピッチを見つめて反応なし。これ以上、はしゃぐようなことがあれば、すぐに連行されるかもしれないと思い、それ以降は黙ってメモを取り続けた。

 試合は2点をリードしながらもドイツの猛攻を受け、同点に追いつかれてしまいジーコジャパンは歴史的金星を逃してしまった。警察官もいつの間にか、いなくなっていたが、試合中は鬼デスクに説教を受けるのと同じくらいの冷や汗をかいていた。

(サッカー担当・三浦憲太郎)