【多事蹴論(4)】2002年日韓W杯で日本代表を指揮したフランス人のフィリップ・トルシエ監督はピッチ内外で規律を求める厳格な指導者として知られる。

 練習中、指示した通りにできない選手やミスした選手を容赦なく罵倒し「グラウンドから出ていけ」と、トレーニングから外したり、宿舎内でも選手部屋を予告なしに訪問し「普段から準備ができていない選手は試合でもいいプレーができない」と整理整頓を要求。カバンを置く位置まで指定するなど徹底した選手管理を行った。

 そんな指揮官の厳しい取り組みに選手たちは困惑するばかり。しかもエキセントリックな指導もあって選手たちは不満を募らせていたが、中でも猛反発したのは合宿中の食事だ。当時、あるイレブンは「突然、朝食を白ごはんとみそ汁だけにしたんですよ。それ以外のおかずは一切なしって。トルシエ監督の指示らしいけど、ひどくないですか」と本紙に打ち明けた。

 体が資本のアスリートにとって食事はパワーの源。栄養のバランスを考えたメニューが出るのは当たり前になっている時代に逆行する施策と言える。その上、選手らに無用のストレスを与えているとなれば、実戦でのパフォーマンスにもマイナスの影響しかない。それなのに、なぜ指揮官は朝食を改革したのか。そこで取材を進めると、その意外な理由が判明した。

 当時の代表スタッフらによると、トルシエ監督は試合やトレーニングで選手らの動きが悪いことを問題視。その理由について「日本人は朝からたくさんの食事を取る。明らかに食べ過ぎている。だから動けないんだ」と決めつけると「フランスで朝食といえばコーヒーとクロワッサンだけ。日本ならば…ごはんとミソスープだろう。これからは、それで十分だ」と、導入を決めたという。

 当然ながら選手たちもスタッフを通じて異を唱えると、ふりかけとおしんこが追加されるようになった。選手たちは「合宿中、唯一の楽しみは食事なんですよ。白ごはんだけでは何か物足りない感じだし、パワーも出ない。さすがにどうなんでしょうね」と、キレ気味に語っていた。

 もともと、トルシエ監督は選手の食事面についても口うるさく指導するタイプで日本代表チームが活用していた専属料理人に難色を示したり、ビュッフェスタイルの食事の際に各選手のテーブルを回って「お前は肉ばかりでサラダを食べていない」とし、選手の皿に山盛りの野菜をのせて食べることを強要するなど、現在ならパワーハラスメントに該当するような言動もあったという。

 そんな中、朝食問題について、日本サッカー協会の大仁邦弥技術委員長(当時)に聞くと「そうなの? ちょっと確認する」とし、後に改善したそうだが、日韓W杯で指揮官の求心力のなさがベスト16敗退の要因と言われたのも、これが原因だったのかもしれない。