辛辣な記事を受け止めた 吉田麻也の静かなる強さ

2020年05月12日 11時00分

吉田麻也(ロイター)

【西川結城のアドバンテージ】取材対象者から直接話を聞き出す「一次情報」がなければスクープや独自記事は成立しない。人が介在する情報のやりとり。つまり、良しあしは別として人間関係の構築が良記事(信ぴょう性の高いニュースや熱量を感じるコラム)の基盤となってくる。

 これまでたくさんの取材対象者にお世話になってきた。中でも、プロ1年目から現在まで取材するDF吉田麻也とは、あらゆる場面を共有してきた。18歳のころから人とのつながりを大切にする律義な性格が印象的だった。

 センターバックというミスがそのまま失点に直結する位置で、何度も痛恨のプレーを繰り返した。トライ&エラーの日々は続き、そのたびに決して小さくない世間からの非難の声を浴びてきた。今や代表のキャプテンを務めるディフェンスリーダーが、批判にさらされながらもこの世界で生きていく覚悟を決めた瞬間があった。

 2013年6月、ブラジルで開催されたコンフェデレーションズカップ1次リーグのイタリア戦。日本は強豪相手に互角に渡り合う好戦を演じたが、3―4で逆転負けを喫した。イタリアに流れを明け渡すキッカケになったのが2失点目。その直前、吉田が緩慢な対応で相手に突破を許したことが原因だった。

 素晴らしい時も、稚拙な時も、起こった現実に即して記事を書く。その意味で、彼をよく知る立場だからこそ、この日のプレーは擁護できない、見過ごすべきではないと思った。試合後、筆を走らせる。記すのはこれまでにない辛辣な言葉。脱稿後、おもむろに吉田に連絡した。「申し訳ないけど、クレーム覚悟でおそらくどの記事よりもミスに一番厳しく言及しています」。受話器越しに返ってきた吉田の言葉が耳に残る。

「受け止めます。僕を一番見てきている記者さんだからこそ、ダメだと書いてください。今日、僕はこういう批判を受けながらも生きて、そして挽回しないといけない立場なんだと本当の意味で理解できました。だから、そう言ってもらえてむしろ感謝しないといけないです。必ず成長します」

 明るい性格が先行し、頼りないイメージが世間にはあった。ただ藤田俊哉や楢崎正剛といった先輩は「あいつは未来の代表キャプテン」と見抜いていた。そして私も確信する。損得勘定や忖度の有無で人や物を見定めない。自分にも他人にもフラットな目線を向ける。主将を務める今も変わらぬ、人間・吉田麻也の静かなる強さだ。

 自戒を極めるとともにこちらの心に突き刺さった、裸の思い。プロ選手として一本筋を通し生きていく。吉田が腹をくくった、ブラジルの夜だった。

 ☆にしかわ・ゆうき 1981年生まれ。明治大卒。専門紙「EL GOLAZO」で名古屋を中心に本田圭佑らを取材。雑誌「Number」(文藝春秋)などに寄稿し、主な著書に「日本サッカー 頂点への道」(さくら舎)がある。