サッカー日本代表のバヒド・ハリルホジッチ元監督(66)が10日、日本サッカー協会と同協会の田島幸三会長(61)に対して起こしていた訴訟を取り下げた。

 原告側は、昨年4月の解任に伴う記者会見で協会側に「監督としての社会的評価を著しく低下させた」とし、慰謝料1円と新聞やホームページでの謝罪広告を請求したが、協会側は「社会的地位は低下していない」と主張。裁判官から示された和解案にも応じず、争いは泥沼化しつつあった。

 そんな中、解任から約1年を経て元指揮官が訴えを取り下げる形で急転直下の決着。原告側の金塚彩乃弁護士によると「争いごとはやめて、前に進んで行きたい。過去に引きずられるのはよくない、すっきりして前へ」という本人の意向を受け、今回の結論に至ったという。田嶋会長は「裁判が終わってよかった」とした上で「ハリルホジッチさんの貢献には深く感謝している。これからも彼のことは応援したい」と語った。

 それでは、徹底抗戦の構えを見せていたハリルホジッチ氏はなぜ自ら矛を収めて“終戦”の道を選んだのか。

 田嶋会長が「欧州の最新の手法と哲学を日本サッカーに吹き込んだ。日本代表をW杯アジア予選突破に導いてくれたことは彼の実績」と指摘するように、サッカー界ではその手腕が高く評価されている。すでにフランス1部ナントの監督として再出発し、今後もクラブや各国代表チームからのオファーが舞い込む可能性は高い。将来的に新たな職場を探す上で“裁判沙汰”はマイナスになりかねない。そこで「前へ進みたい」との理由で訴えを取り下げた。

 日本代表監督による前代未聞の裁判は何ともすっきりしない形で、意外な終結を迎えたと言えそうだ。