どんなに高級なオモチャを与えても、使い方がわからなければ、ただのガラクタでしかない。どんなに高級食材を用意しても、料理人の腕が悪ければ、お客様に提供できる料理にはならない。

 たとえが適切かは別にして、今のサッカー界で数多くの物議を醸しているビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)はまさに運用面での岐路に立たされていると言ってもいいだろう。日本のサッカーファンをあぜんとさせたアジアチャンピオンズリーグ(ACL)準決勝。初出場のJ1神戸は蔚山(韓国)に対し、後半に先制点を奪いながらも、2つの疑惑の判定でファイナルへの道を閉ざされた。

 1点リードで迎えた後半30分、中盤でMF安井拓也(22)のボールカットからパスをつなぎ、最後はFW佐々木大樹(21)が競り勝って試合を決める2点目を挙げたかに思われた。だがVAR検証の結果、安井がファウルをとられてノーゴール。その5分後には蔚山が左に展開し、クロスからの流れでゴールネットを揺らされたが副審がオフサイドフラッグを上げ、ノーゴールとなるはずだった。しかし、VAR検証で今度はこのゴールが認められ、試合は1―1となった。

 結局、神戸は延長後半にPKを献上してまさかの逆転負け。試合後のインタビューでMF山口蛍(30)は「胸を張って日本に帰りたい」と判定への不満を一切、口にしなかったが、Jリーグ初代チェアマンで日本協会会長も務めた川淵三郎氏(84)は自身のツイッターで「怒りが収まらない」と投稿。日本協会の田嶋幸三会長(63)も協会のトップとしてアジアサッカー連盟(AFC)に抗議する姿勢を明らかにした。

 VARはゴールにかかわる場面や重大な反則があったと思われるシーンに対し、複数のカメラ映像をもとにVAR担当の審判がチェック。主審に「助言」という形で判定を促すというものだが、運用されている各国リーグなどでは今でも選手や監督側から疑問や不満の声が絶えない。

 今回の神戸の件で一番の問題となったのは、主審の判断力と言ってもいい。VARはあくまで「テクノロジーの目」としての位置づけで、最終的には主審の判断で全てが決まる。安井のプレーにしても、そこまでさかのぼる必要があったのか。さらに蔚山のオフサイドが覆ってゴール判定となった件も、左サイドにボールが出た時点で中央にいた神戸DFとのラインのズレを確認できていたのか。どんなに有能な機械を装備していても、運用する人間が使いこなせなければ、何の役にも立たない。もともと世界的にレベルが低いとされるアジアの審判(VAR審判を含む)が、最新テクノロジーに追いついていないことだけが浮き彫りになった。

 ちなみに今回の主審、バーレーン人のナワフ・シュクララ氏(44)は2011年11月15日に北朝鮮・平壌で行われたW杯アジア3次予選の北朝鮮―日本戦でも笛を吹いていた審判。その試合、日本は北朝鮮に0―1で敗れている。9年の歳月を経て、日本勢は因縁の審判にまたも敗戦のホイッスルを聞かされる結果となった。